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「自国民は食べない」小麦を輸入する日本の末路

東洋経済オンライン転載   鈴木 宣弘 2021/08/27

徹底した規制緩和で、食料関連の市場規模はこの30年で1.5倍に膨らむ一方、食料自給率は38%まで低下している。

世界的な人口増による食料需要の増大や気候変動による生産量の減少で、食料価格が高騰し、輸出制限が懸念されるなか、日本は「食の安全保障」を確立できるのか。新著『農業消滅』は、日本の農業が今どのような危機にあるのかを伝えています。

本稿は同書から一部を抜粋・編集しお届けします。

「自国民が食べないもの」が日本に送られている

 アメリカの穀物農家は、日本に送る小麦には、発がん性に加え、腸内細菌を殺してしまうことで、さまざまな疾患を誘発する懸念が指摘されているグリホサートを、雑草ではなく麦に直接散布している。収穫時に雨に降られると小麦が発芽してしまうので、先に除草剤で枯らせて収穫するのだ。枯らして収穫し、輸送するときには、日本では収穫後の散布が禁止されている農薬イマザリルなどの防カビ剤を噴霧する。

 「これはジャップが食べる分だからいいのだ」とアメリカの穀物農家が言っていた、との証言が、アメリカへ研修に行った日本の農家の複数の方から得られている。

 グリホサートについては、日本の農家も使っているではないか、という批判もあろう。だが、日本の農家はそれを雑草にかける。

 農家の皆さんが雑草にかけるときも慎重にする必要はあるが、いま、問題なのは、アメリカからの輸入穀物に残留したグリホサートを、日本人が世界で一番たくさん摂取しているという現実である。

 しかも、アメリカで使用量が増えているので、日本人には小麦のグリホサートの摂取限界値を6倍に緩めるよう要請され、日本政府は2017年12月25日に、「クリスマス・プレゼント」と称して緩めてしまったのだ。残念ながら、日本人の命の基準値はアメリカの必要使用量から計算されているのであろうか。

 農民連食品分析センターの検査によれば、日本で売られているほとんどの食パンからグリホサートが検出されているが、当然ながら、国産や十勝産と書いてある食パンからは検出されていない。

しょうゆからも検出

 また、大豆製品では、Rubio ほかがフィラデルフィアで購入した醤油中のグリホサート分析をし、検査した醤油の36パーセントで定量下限より多いグリホサートが検出された。有機醤油からグリホサートは検出されなかった(渡部和男氏のメモ、2015)。

 日本国内の醤油についての検査も不可欠と考えられる。日本人の毛髪検査からの輸入穀物由来とみられるグリホサート検出率も高い(28人中19人に検出、検出率68パーセント)。

 世界的にはグリホサートへの消費者の懸念が高まり、規制が強化されるなかで、日本は逆に規制を緩和しているので、日本での儲けに期待が高まることになる。

 2018年3月末に、消費者庁から「消費者の遺伝子組み換え表示の厳格化を求める声に対応した」として、GM(遺伝子組み換え)食品の表示厳格化の方向性が示された。

 アメリカからは、日本に対してGM表示を認めないとの圧力が強まると懸念されていたなかで、私はGM表示の厳格化を検討するとの発表を聞いたときから、アメリカからの要請に逆行するような決定が本当に可能なのか疑念を抱いていた。

 特にアメリカが問題視しているのは、「遺伝子組み換えでない」(non-GM)という任意表示についてである。すなわち、「日本のGM食品に対する義務表示は、対象品目が少なく、混入率も緩いから、まあよい。問題はnon-GM表示を認めていることだ」と日本のGM研究の専門家の一人から聞いていたからなのだ。

 「GM食品は安全だと世界的にされているのに、そのような表示を認めるとGMが安全でないかのように消費者を誤認させるからやめるべきだ。続けるならばGMが安全でないという科学的証拠を示せ」という主張であった。

そもそも緩かった「遺伝子組み換え表示義務」

 日本のGM食品に関する表示義務は、①混入率については、おもな原材料(重量で上位3位、重量比5パーセント以上の成分)についての5パーセント以上の混入に対して表示義務(注1)を課し、②対象品目は、加工度の低い、生に近いもの(注2)に限られ、加工度の高い(=組み換えDNAが残存しない)油・醤油をはじめとする多くの加工食品(注3)、また遺伝子組み換え飼料による畜産物は除外とされている。

(注1):GM原材料が分別管理されていないとみなし、「遺伝子組み換え不分別」といった表示が義務となる。

(注2):トウモロコシ、大豆、じゃがいも、アルファルファ、パパイヤ、コーンスナック菓子、ポップコーン、コーンスターチ、味噌、豆腐、豆乳、納豆、ポテトスナック菓子など。

(注3):サラダ油、植物油、マーガリン、ショートニング、マヨネーズ、醤油、甘味料類(コーンシロップ、液糖、異性化糖、果糖、ブドウ糖、水飴、みりん風調味料など)、コーンフレーク、醸造酢、醸造用アルコール、デキストリン(粘着剤などに使われる多糖類)など。

 これは、0.9パーセント以上の混入があるすべての食品に、GM表示を義務付けているEUに比べて、混入率、対象品目ともに極めて緩い。

 これに対する厳格化として、決定された内容を見て驚いたのは、①と②はまったくそのままなのである。

 厳格化されたのは、「遺伝子組み換えでない」(non-GM)という任意表示についてだけで、現在は5パーセント未満の「意図せざる混入」であれば、「遺伝子組み換えでない」と表示できたのを、「不検出」(実質的に0パーセント)の場合のみにしか表示できないと、そこだけ厳格化したのである(違反すると社名も公表される)。

 この表示義務の厳格化が、2023年4月から施行されれば、表示義務の非対象食品が非常に多いなかで、可能な限りnon-GMの原材料を追求し、それを「遺伝子組み換えでない」と表示して、消費者にnon-GM食品を提供しようとしてきた、GMとnon-GMの分別管理の努力へのインセンティブが削がれてしまう。そして、小売店の店頭から、「遺伝子組み換えでない」という表示の食品は、一掃される可能性が出てくるだろう。

 例えば、豆腐の原材料欄には、「大豆(遺伝子組み換えでない)」といった表示が多いが、国産大豆を使っていれば、GMでないから、今後も「遺伝子組み換えでない」と表示できそうに思うが、流通業者の多くは輸入大豆も扱っているので、微量混入の可能性は拭えない。

 実際、農民連食品分析センターの分析では、「遺伝子組み換えでない」大豆製品26製品のうち11製品は「不検出」だったが、15製品に0.17パーセントから0.01パーセントの混入があり、今後は、これらは「遺伝子組み換えでない」と表示できなくなる。

 「GM原材料の混入を防ぐために、分別管理された大豆を使用していますが、GMのものが含まれる可能性があります」といった任意表示は可能としているが、これではわかりづらくて、消費者に効果的な表示は難しい。そこで、多くの業者が違反の懸念から、表示をやめてしまう可能性もある。すでにnon-GM表示をした豆腐などからの撤退が始まっている。

割を食うのは消費者

 GM表示義務食品の対象を広げないで、かつ、GM表示義務の混入率は緩いままで、このようなnon-GM表示だけ極端に厳格化したら、non-GMに努力している食品がわからなくなり、GM食品ばかりのなかから、いったい、消費者は何を選べばよいことになるのだろうか。消費者の商品選択の幅は大きく狭まることになり、わからないから、GM食品でも何でも買わざるを得ない状況に追いやられてしまうだろう。

 これでは「GM非表示法」である。厳格化といいながら、アメリカの要求をピッタリと受け入れただけになってしまっている。

マンション大規模修繕で住民を食い物にする呆れた業界の実態

ダイヤモンドオンライン 転載

本来、マンション管理は地道で堅実な仕事であるはずだ。各マンションを担当するフロントマンは住人の身になり、快適な生活をサポートして喜ばれる、それ自体がやり甲斐のある仕事だ。

しかし実態は違う。決まった管理委託費で満足し、地道に管理する会社では、この業界で生き残ることは難しい。ここでも悪貨が良貨を駆逐するという現実がある。だから管理会社は社員に、何とか管理組合の財布の紐を緩めさせることを求める。管理会社の模範的社員とは管理組合の節約に貢献する人ではなく、気前良く使わせる人なのだ。中でも高額な大規模修繕工事を受注できれば高い評価を得られる。そんな業界の体質は、しばしば摘発される公共工事顔負けのリベート・談合天国で、そのツケを払っているのはマンションを区分所有する住民なのだ。

メンテ、補修、大規模修繕工事
マンション管理はリベート天国

管理組合の補修、大規模修繕工事などの出費で管理会社が潤うのはなぜか?

それは管理会社が、実際の施工業者と下請け契約を交わし「手数料」などの名目で取り分を得られるからだ。

しかし実はそれだけではない。この業界は10%ほどのリベートがまかり通る世界なのだ。管理組合が見せられるのはリベートを乗せた金額で、損をさせられるのはここでも住民というわけだ。素人の管理組合理事にはとても見抜くことができないし、「高い」と感じても簡単に言いくるめられてしまう。これが高額な契約となる大規模修繕工事でも行われる。住民は、ただでさえ資金が不足がちな大規模修繕工事のために、積立金の値上げや一時金の徴収、果ては銀行借り入れまでして、管理会社に貢いでいるともいえる。

マンション黎明期から今に至るまで、大規模修繕工事を含む、あらゆる補修、設備の維持管理にかかる費用は、管理会社の「言い値」で支出され、管理会社の利益を生んできた。

もっとも、この仕組みは経済環境が厳しくなるにつれて、業界内の競争が激しくなって事態は少し変わってきている。私が、管理会社のボッタクリ状態から主導権を取り戻すためのノウハウを紹介し始めると、意欲的な管理組合が現れ、管理会社を変更する事例が増え始めたからだ。さすがに、管理会社の「やりたい放題」とはいかなくなってきている。

そこで、問題が起きたら管理契約を失うリスクの高い大規模修繕工事は外部に任せて、大規模修繕工事以外のあまり細かくコストカットを求められない小予算の修繕、改修工事で利益を積み上げるような戦略転換が起こってきている。

管理会社に代わって暗躍する
設計コンサルタント会社

大規模修繕のキーポジションとしては、管理会社に代わり設計コンサルタント会社(以下、設計コンサルと略)がその役割を果たすことが多くなっている。

本来、設計コンサルの業務は、専門知識のない施主(住民)に代わって、施工レベルを保ちながらコストを抑えることだ。つまり、欠陥工事、水増し工事から管理組合を守る“正義の味方”と期待されているのだ。

ところが実態は、単に管理会社に代わって施工業者から同様にリベートを受け取っていることが多い。設計コンサル自体も競争の激しい業界である。どんなに美味しいシステムを持っていても、受注できなければ意味がない。

そこで設計コンサルは、管理会社に営業をかけて受注する。安く引き受けても、前述のリベートシステムで十分ペイできる仕組みになっているため、損はしない。一部には施工業者からのリベートの一部を管理会社に上納する二重リベートシステムさえ存在する。

用意周到に仕組まれた談合装置
見せかけの競争・業界紙入札公募情報

それだけで驚くのはまだ早い。実際はリベートどころか、設計コンサルが仕切る談合によって、仲間内の利益を最大限に得ようとする手口がまかり通っているのだ。その手口はこうだ。

設計コンサルは、受注させる業者に声をかける。「今回はそちらに頼むからよろしく、リベートは10%で…」そして他の数社には「入札」(談合)に協力を依頼する。断れば仕事は一生回ってこない。数回協力すれば自分の番はやってくるわけだ。

ところがこれだけでは、談合に関係なく入札する業者が、もっと安い価格で応札する可能性がある。

そこで、設計コンサルは、「資本金5000万円以上」や「工事売上30億円以上」などハードルの高い入札条件を業界紙に公募情報として掲載する。「公募情報」といえば聞こえはいいが、専門家から見れば「談合宣言」に等しい公募なのである。

それでも談合サークル外の業者が安値で応札した場合、「そこだけが安いのは信用できない」(本当はそちらが適正価格に近く、談合組が高すぎるのだが)などとアドバイスして管理組合を説得し、結局、意中の業者に受注させる仕組みだ。

どうしたら、こんなリベートや談合に振り回されずにすむのだろうか?

悪い奴らに甘い汁を吸わせない
マンション大規模修繕工事の極意とは?

ここまでお話ししておいて「お前もか?」と言われそうだが、かくいう私も設計コンサルのはしくれであり、実際に、私が経営するシーアイピーは大規模修繕工事の設計コンサルを主要業務の一つとして取り組んでいる。
ただし、シーアイピーは設計コンサルに関して、ビタ一文リベートを受け取らない“非常識な”設計コンサルである。

残念なことに、同じように談合を仕切らない、リベートを受け取らない設計コンサルを、現時点で私はほとんど知らない。時々、工事業者の営業担当者がやってきて「シーアイピーさんにはリベートはどのくらい差し上げればよろしいでしょうか?」と聞くので「うちはいただきません」と答えるとびっくりされるほどだ。

だが、そうでなければどうして住民の側に立った適正な工事監理ができるだろうか?誰だって、利益が大きい方がいいに決まっている。もらえるところからは、どこからでももらいたいのが人情だ。住民にしてみれば少しでも安く引き受けてもらえる方がいいに決まっている。

しかし、そのようなそれぞれの立場の心理が、大規模修繕工事を談合とリベートの温床にしているのだ。

「管理組合=区分所有者」にとって一番大切なことは、管理組合と管理会社とは利益相反の立場にあり、言いなりになってはいけない、ということだ。

例えば何かの小工事が必要となった場合、相見積は当然だが、それも管理会社に任せるのでは意味はない。試しに、管理組合の誰かが他の業者に見積もりを依頼してみるといい。あまりに乖離した金額に驚くはずだ。

今ではインターネットを通して、業者のサイトから簡単に見積もりを依頼することができる。遠くからやってくる管理会社の取引先より、近所の業者の方が地域の信用も大切なので、適切な価格で丁寧な仕事となる可能性が多いし、アフターサービスも安心だ。

大規模修繕工事を良心的な設計コンサルに任せたいなら、管理会社経由で頼んではいけない。その時点で中立性は崩れてしまうからだ。

かと言って、独力で探すのは管理組合には荷が重い。

今一番注目されているのは、そんな談合やリベートを見抜く力のある、完全に管理組合側に立ってくれる「顧問」を雇うことだ。この役割を担えるのはリベートで利益を得ていない、私たちのような異色のコンサル会社やマンション管理士事務所だ。「マンション管理組合、顧問」でググれば多くの、高い倫理性、透明性を謳った顧問業務を引き受ける会社のホームページを見つけられる。よく見比べ、話を聞き、数社に絞り、さらに対話を重ねて決めると良い。工事や設計監理などと違い、実績が見えにくい顧問に月数万円の顧問料は大きく思えるが、結局のところ安くつくだけでなく、資産価値の下落や、会計の破綻を防ぐことができる。

資本金や工事売上などで公募をかける設計コンサル業界も要注意だ。過去5年間程度、新聞掲載の公募情報を見せてもらうと一目瞭然。悪しきリベート体質の餌食とならないために、心に留めていただきたい。

(株式会社シーアイピー代表取締役・一級建築士 須藤桂一)

銀行と業者が結託?狙われる地方家主

AERA.dot  転載

相続税の節税のため、アパート建設が増加する中、不動産管理業者が家主に家賃保証して借り上げ、入居者に貸し出す「サブリース」契約を巡るトラブルが地方で続出している。銀行と不動産管理業者が結託し、「損はしない」と甘い誘いをかけ、家主が経営に乗り出すが、数年で空室が増え、借金が返せなくなるケースが目立つ。

*  *  *

千葉県野田市に住む男性(76)は裁判所から届いた手紙の前で頭を抱えていた。男性は自宅の住宅ローンの借金約570万円と、アパートを購入した際の借金2千万円以上を抱える。自宅は差し押さえられた。裁判所から自宅の評価額の通知を待っている。

現役時代は中堅の広告代理店で働き、年収1千万円の時期もあった。狂い始めたのは、業者の甘い勧誘を受けてからだ。

1992年3月、男性は銀行を含む金融機関と約6千万円の融資契約を結んだ。金利は固定金利の7・75%で期間は30年。この資金は、大手不動産管理会社と契約したアパート建設資金約5900万円に充てられた。

購入したアパートは山梨県に建てられた。「都市部は地価が高すぎる。これからは地方の時代」と言われたからだ。

男性はアパートを契約する前、すでに銀行から借金し、千葉県野田市に自宅を購入していた。当時その住宅ローン返済に月約5万円を支払い、年収は600万円ほど。副業や不動産収入はない。追加で6千万円もの借金をするには、本来なら融資する側も慎重に審査すべき案件だ。

男性は契約時、大手不動産管理会社の営業担当者から口頭で(1)10年間、月40万円の家賃保証(2)購入後5年~10年の期間は無条件で契約時の売買金額で売ることができる特約を説明された。

「家賃保証があり、購入額と同じ金額で売却できるなら」と軽い気持ちでサブリース契約を結んだ。

アパートのローン返済額は月43万円。家賃保証でもらった40万円を差し引いても、すでに3万円の赤字だったが、「当時の給与で3万円の支払いならば問題なかった」という。

そして契約から8年を過ぎたころ、アパートの売却を申し出た。購入時の金額で売却できるか、担当者に問うと「そんなことできるわけがありません」と突っぱねられた。男性が反論すると、「証拠となる書類を見せてください」と言われた。その特約を示す書類はどこにもなかった。

さらに契約して10年を過ぎてからは家賃保証の金額を17万円まで一方的に引き下げられ、自宅の住宅ローンを含めローンの支払額は月に30万円を超えた。

会社を退職してから、支払いは困難になった。男性は裁判を起こしたが、訴えは棄却された。

「事実と違う説明をされてモノを売りつけるのは違法ではないのか」と憤る。

■地方で増えるサブリース契約をめぐる被害相談

国民生活センターには、冒頭の男性と同じようにサブリース契約を結んでアパート経営を始め、首が回らなくなった家主からの相談が相次いでいる。

山陽地方に住む70代の女性は2000年に不動産会社からしつこい営業をかけられ、アパート経営を始めた。銀行から借金をして購入したアパートは徐々に空室が目立つようになり入居者は8部屋中、3部屋まで減った。当初の契約は30年間の家賃保証があったが、契約更新の際、担当者から一方的に賃料を下げると言われた。さらに10年後のリフォーム資金にかかる費用負担の説明が一切なかった。最終的に銀行への返済金が家賃収入を上回り赤字になった。

国民生活センターには、▽しつこい勧誘▽リスクを明示する重要事項の説明がない▽節税対策と思って契約したが、契約更新の際、不利な条件がつきつけられた――という相談が並ぶ。

国民生活センターは「アパート建設は、大切な相続のお話に直結する。契約する前に一度立ち止まり、親子で共有することで冷静な判断ができる」とアドバイスする。

サブリース被害対策弁護団によると相談件数は2012年、月に2~3件だったが、昨夏から年明けにかけ、地方を中心に相談件数は4倍以上増えた。

サブリース大手「レオパレス21」(東京都)などを相手に、家主たちが集団提訴を起こすケースも地方で目立つ。

■銀行と不動産管理業者が結託?ビジネスのカラクリ

冒頭の千葉県の男性がサブリース契約を結ぶ時、背中を押したのは、6千万円の融資をした銀行融資担当者の一言だった。

「家賃保証が付いているこのビジネスモデルはすばらしい」

だが、このビジネスモデルにはカラクリがあった。

ある地方銀行の融資担当者はこう打ち明ける。

「銀行が不動産管理業者にアパート建設の顧客を紹介した場合、業者から紹介手数料を受け取る契約を結んでいる」

銀行と業者間の手数料のやり取りはあまり知られていないが、昔から存在する。一般的に業者が銀行に支払う手数料は建築価格の3%以内とされ、銀行関係者は「銀行が銀行窓口で生命保険を販売する見返りに受け取る販売手数料と同じようなもの」と話す。

金融庁は3月30日、銀行などに対し、顧客本位の融資を実現するよう注意を勧告。利益相反の適切な管理や手数料の明確化などを求めている。

銀行と業者間で手数料が発生し、顧客がそのやり取りを知らされていなければ、不利益を被る可能性があるからだ。

実際、業者が銀行に支払った手数料分を建築価格に上乗せしているか、否かは素人では判断できない。金融庁は「銀行は判断できる立場」とし、顧客本位の業務運営を求めている。

元地方銀行の融資担当者は顧客本位とは程遠い実情をこう明かす。

「顧客は、メーンで利用する銀行からサブリース契約を紹介されれば、まず信頼する。さらに融資の確約まで得られれば、他社と比較せず金額交渉もしない。銀行への紹介手数料分が顧客の負担になり、建築価格が膨らんでもまず、わからないだろう」

■アパート融資は地方銀行のノルマ達成の頼みの綱

ある大手地方銀行の融資担当者はこう打ち明ける。「支店の業績表彰のために、事業性融資の金額の底上げが必要になる。アパート融資を推進する理由は、高金利のほかに、アパート融資もこの事業性に組み込まれていることが要因」

事業性融資とは、企業が手がける事業の成長性などを評価して貸し出す仕組みだ。この事業性部門は支店の要で、融資担当者にとって、アパート融資の目標達成は人事上での評価も高いという。

「これまで銀行全体としてアパート融資に積極的だった。一定の給与収入があれば、支払い能力があると判断し、アパートの家賃収入の試算が甘くても融資できた。(貸出額を引き上げるための)最後の頼みの綱だった」(前出の担当者)

しかし、ここ半年ほどで雰囲気が変わった。

「本部がアパート融資に歯止めをかけ始めている」というのだ。

それでも現場レベルでは貸し出す企業がなければアパート融資に頼る現状は変わっていない。

「震災復興需要で業績が良い企業にアパート融資をお願いしたりして、企業向け融資(事業性融資)を稼いでいる支店が多い」のが実情だ。

日銀が8月10日発表したアパート融資の新規融資額を示す「個人による貸家業」の統計によると、4~6月期は7171億円で、前年比で14・6%減少した。前年比2期連続で新規融資が減った。

一方、日銀が09年度からアパート融資の残高を把握するために始めた統計によると、大手銀行の10年3月末のアパート融資残高は11兆円。一方で地方銀行は8兆9千億円。その後大手行は残高を下げ、17年3月末に8兆3千億円まで落とした。一方、地方銀行は逆に右肩上がりに残高を積み増しし、17年3月末に13兆8千億円まで増加していた。

サブリース被害対策弁護団の増田祐一弁護士は「昨年9月に国交省が通知を出し、一部業者に対し、家主へのサブリースのリスク説明を徹底させた。その後、大手の不動産業者、都銀は過度な営業活動を控えている」

しかし、人口減少に直面する地方銀行はアパート融資が増加。地方では貸し出しできる企業が少ないため、アパート融資で貸出残高を積み増ししてきた実態が透けてみえる。

不動産コンサルタントの長嶋修さんはこう分析する。

「不動産業者、地方銀行の多くは今もアパート融資に積極的。アパート経営をしたことがなく、不動産投資に疎い地方の地主が狙われやすい。駅から遠いなど、需要がない場所でもアパート建設の営業をしている事例も多い」

前出の増田弁護士によると、最近は大手ではなく、中小の不動産業者と契約した相談者から、「アパートがいつまで経っても建てられない」といった、より悪質な被害相談も増えているという。(佐藤拓也)

男たちが見た小池百合子という女

文春オンライン転載

小池百合子とは何者なのか。

カイロ大留学を経て、キャスターとして颯爽とテレビ画面にデビュー。1992年には新党旋風の中で政界入りを果たす。その後、いくつかの政党を渡り歩くが、彼女の周囲には、細川護煕、小沢一郎、小泉純一郎ら、常に権力者の姿があった。

「男たち」の証言から、女性初の都知事の素顔に迫る。

駅前のロータリーは歩道橋の上まで埋め尽くされていたが、彼女のイメージカラーである緑色のものを身に着けた人は、ほとんど見受けられなかった。

選挙カーの上では候補者の横で黄緑色のジャケットを着た小池百合子都知事が、よどみなく話し続けていた。私の前にいた初老の男性が、

「うまいねえ。大したもんだ」

と隣の女性に語りかけるのを耳にしたが、その口調には、どこか茶の間でテレビを見ながら論評しているような空虚さが感じられた。

選挙カーの上から彼女は観客を巻き込もうと問いかけるように話すのだが拍手はまばらだった。

昨夏の都知事選では緑色の服をまとった、あるいは緑のハンカチやキュウリやニガウリを握りしめた群衆が殺到し、小池の演説に熱狂して、さかんに共感の拍手を送り、さながら野外劇場の観があったものだが。

「小池百合子の前半生を描いて欲しい」と月刊誌『新潮45』から依頼があり、寄稿したのは昨年暮れのこと。以来、私はずっと「戸惑い」を感じながら、今に至っている。

彼女は非常に発信能力の長けた人で著作も多い。また、マスコミ好きでテレビや雑誌上のインタビューにも積極的に応じ、自分を多弁に語ってきた人である。だが、その彼女の「語り」をどこまで信じていいのか。

例えば彼女はカイロ大学を「首席で卒業した」と語っているのだが、アラブ語を学んだことのない留学生がカイロ大学を首席で卒業できるとは、私にはどうしても考えられない。

また、その主張や行動には一貫性が見出せず、彼女が何を思い、何を求めて生きているのかが理解できない。彼女はアジアとの協調路線を謳った日本新党の出身で強烈な「自民党批判」で世に出た人である。ところが自民党に移ると、タカ派的な発言を繰り返すようになる。リベラル層を取り込んで東京都知事になったが、彼女は本当に「リベラル」な考え方の持ち主なのか。

細川護熙、小沢一郎、小泉純一郎と、政治信条もタイプもまったく異なる実力者の傍らに常にポジションを得て、口の悪い人々からは「権力と寝る女」、「渡り鳥」と揶揄されながらも政界を泳ぎ切った女性である。

そして彼女は今、権力者の傍らから離れて、自らの手で地位を掴み、さらには政党まで作ってしまったのだった。

一体、小池百合子とは何者なのか。彼女の「語り」に耳を傾けるだけでは決して実像は見えてこない。ならば、小池と関わりのあった他者たちは、彼女をどう語るのか。そこには本人の「語り」とはまた別の物語が見出せるはずである。

「やります」と即断

エジプトの首都カイロで大学を卒業し、通訳兼ガイドをしていた小池は日本テレビの幹部と現地で知り合い、それが縁となって「竹村健一の世相講談」のアシスタントに選ばれる。その後、テレビ東京が夜の経済情報番組「ワールドビジネスサテライト」を立ち上げるにあたり、初代キャスターとして引き抜かれるのは、ちょうど昭和が終わろうという時期であった。小池の起用を決めたのは日経新聞出身で、当時はテレビ東京取締役報道局長の立場にあった池内正人。

「あるパーティーの席で偶然、一緒になってね、『やってみる気あるか』と聞いたら、『やります』と即断即決だった。彼女は芸能プロダクションに所属していなかったから本人の意思で決められたんだ」

華やかな容姿と頭の回転の速さ。加えて努力家で根性もあった。番組は軌道に乗った。ところが4年後の1992年、細川護熙が新党を立ち上げ、彼女を政界へと勧誘した。

「立派なニュースキャスターになれば、よっぽど社会に影響力を持てる。政治家になったって、どうせ陣笠どまりだ。つまらないじゃないかって引き留めたんだけれどね、彼女はポロポロ泣きながら、『最初は陣笠でも、それで終わるつもりはありません』と言ってね。そういえば話し合いの後、彼女が化粧室に行ったんだけど戻ってきたら、さっきまで泣いていたとは思えない晴れやかな顔をしていたので、あれって思った」

92年、40歳での決断だった。彼女はおそらく自分の年齢を意識していたのだろう。いくら持てはやされていても、テレビの世界で女性は長く活躍できない。容姿が衰えれば若い女性にとって代わられる。自分をもっと有益に生かし得る、第2ステージとして政界を選んだのだろう。永田町ならば、まだ女の寿命は長い。直後の参議院選で当選。党首の細川護熙とは美男美女の組み合わせで日本新党の広告塔となった。細川が語る。

「私が新党を立ち上げようとしたとき、周りにいたのは地味な年配の男性たちばかりでした。花がないと指摘され、小池さんをお迎えするよう助言されたんです」

余談めくが、この頃の小池の最大の武器は、知名度とミニスカートだった。本人自身が「ミニスカートとハイヒールで戦います」と宣言し、選挙期間中も当選後もずっとミニスカートで通した。彼女が選挙カーの梯子を登る時、カメラマンたちが殺到したが、嫌な顔も見せなかった。ファッションを重視し、自分の容姿を最大限に生かそうとする。どうすればマスコミが注目するか、骨の髄からわかっていたのだろう。何を着るか、髪型をどうするか、口紅の色に至るまで細心の注意を払った。それは彼女の最大の関心事であると同時に、有権者の関心事でもあると理解していたのだろう。

細川が内閣総理大臣となる中、彼女が党内で担当したのは広報と候補者の選定だった。細川が続ける。

「発想が自由で独特でした。例えば、ポスター用に『政治家、総とっかえ』なんていうキャッチフレーズを思いつく。私に記者会見でプロンプターを使うように勧めてくれたのも彼女でした。候補者の選定でも、テキパキと指揮を執ってくれた。一方、政策面には、そんなにコミットしていなかったかもしれません。そこは主として新聞記者や学者に手伝ってもらっていましたので」

表情を作って話をする

政策の中身よりも、話し方やネクタイの趣味のほうがテレビを見る有権者の心を掴む。この頃から、テレビが政治を左右する傾向が強くなっていた。見た目や、ワンフレーズの受け答えが重視される。平成時代に入って政治そのものがファッション化していった。小池は時代の申し子だったのかもしれない。

「テレビの影響で政治家のあり方が変わり、テレビにうまく対応できる人が政治家として売れていくという時代になった。小池さんもその中から出てきた人、というか、彼女はテレビの中から生まれ、その先頭にいた人でしょう」

そう指摘するのは、日本新党に合流した元社民連代表の江田五月だ。

「小池さんは日本新党のフレッシュなイメージを象徴する役割を担わされていたから、見られる、ということに過剰になってしまったのかもしれない。今でも、すごく表情をつくって話をする。ああ、小池さんだな、と思う」

細川政権は7党1会派からなる連立政権だったため始終、政策をすり合わせる必要があった。だが、そういった場に小池がいることはなかった。表向きは日本新党の顔だが、任されたのは候補者選びと広報、マスコミ対策に限られていたからだ。

絶大な人気を博したものの、細川政権は短命に終わる。彼女にとって最大の庇護者だった細川が首相辞任を表明すると、その行動は素早かった。日本新党に所属していた遠藤利明元2020年東京オリンピック・パラリンピック大臣が語る。

「細川さんが辞めると言い出した時、彼女は自分が代わりに党首になるか、もしくは日本新党を解党し新しい政党をつくり自分が党首になるかで悩んでいました。その頃からトップに立ちたいという意欲はあったんだよね」

一方、江田の証言は、少し異なる。

「細川さんの輝きが失われて、ぐらつき始めた時、彼女はもう連立を組む新生党の小沢一郎さんに近づいていた。機を見るに敏だなあ、と感じた記憶があります」

自分がトップに立つか、小沢の元に参じるかで悩み後者を選んだ、ということのようだ。

細川が辞任した94年の暮には、日本新党、公明党の一部、小沢が率いる新生党ほかが合併して海部俊樹を党首に新進党が誕生。横浜アリーナで客席を一枚布が蔽う華やかな党大会が催され話題をさらった。この時、江田は大会招集委員長を務め、その後、広報企画委員長を担当。小池は広報企画委員長代理だった。江田は続ける。

「小池さんは演出や広報は確かにうまい。ただ、それは表面的なことなんですよね。環境大臣時代に『クールビズ』というのを打ち出しましたが、なぜ環境が大切なのか、そういった信念みたいなものは伝わってこない」

新進党は200人を超える大野党として好スタートを切ったものの羽田孜と小沢一郎の対立が深刻化し、やがて内紛となる。江田や細川は羽田につき、小池は小沢についた。新進党の解党後は、小沢とともに自由党に参加。

この時、行動をともにした同僚に西村眞吾がいる。新進党、自由党で一緒に過ごした西村は「やくざ世界でいえば、『姐さん』のようなポジション」だったと小池を語る。

「トップと近い。彼女は常にそう見られるように振舞っていた。男にはできないよ。常に脚光を浴びる人物の隣に陣取る。だいたい、街宣車の上で小泉純一郎のネクタイ、男が直しても様にならんわな。

例えば小沢さんと飯を食う。そうすると彼女は必ず小沢さんの隣に座る。俺は党首だから『小沢先生』と呼ぶ。彼女は『小沢さん』と呼ぶ。傍から見たら、俺より上、というふうに映るわな。昔、耳かき専門の坊さんがおった。秀吉の時代。坊さんが秀吉の耳かきをする。耳かきしながら、何かしゃべってるように見せかける。実際はしゃべってへんのやけれど。すると周りの大名たちには、坊さんが何かささやいているように見える。で、その坊さんのところには大名から付け届けがたくさん届く。政界にはそういう人間が多い。

最近の小池百合子を見ていて、よく思い出すのは管野スガ。大逆事件で女性で唯一死刑囚になった人や。このスガは死刑になるとき、他の男たちと違うて、まったく取り乱さなかったそうやね。俺の大学の先生が、この話をしてくれて、こう言うた。『女はな、アバズレほど度胸が据わってるもんや』。あと、朴槿恵にも似てる。孤独な感じが。目が笑うてない。拉致被害者の議連でも一緒やったけれど、テレビカメラが入ると、必ず映り込む。あれは本能やと思った」

権力者の傍らにいること、トップと近しいと周囲に思わせること、マスコミに登場し知名度を保ち続けること。そのためにはどうしたらいいのか。彼女の関心は、常にそこにあったのか。だからこそ、政策や信念は周囲の状況に合わせてぶれていくのだろうか。西村は続けた。

「コロッと自説を変えてしまうことがあった。例えば、在日外国人参政権、俺も小池も反対してた。ところが、小沢さんが賛成となったら、小池もそっち側に回っていた」

権力者への徹底的な忠誠。しかし、それすらもある日、突然変わってしまう。

小沢一郎の側近中の側近、自由党時代には参議院議員も務めた「小沢の懐刀」平野貞夫が振り返る。

「自由党は自民党と連立しましたが、連立を続けるべきか、あるいは袂を分かつべきかで、党内の意見が分かれた。小池さんも僕も、リベラルな保守政党として、自民党とは一緒にならずにやるべきだと思っていた。小池さんは『自民党に合流しないで踏ん張りましょうよ』と言ってね。小沢も感激していた。ところが、そんな小池さんに公明党を通じて自民党が『応援するから自由党を出ろ』と揺さぶりをかけてきた。でも、小池さんを信じていたから小沢は特に対策はしなかったんです」

自民党なんかとくっついてはダメだと主張する急先鋒だった小池が、離反するとは考えられなかったと平野はいう。

「でも、いよいよ小池さんが怪しい、抜けそうだと情報が入ったので、私は小沢に、『小池さんに電話して残るように説得してくれ』と頼んだ。それで小沢が小池さんに連絡をして、『自由党で比例第1位にするから残ってくれ』と引き留めたんです。ところが、その時、小池さんがなんて言ったか。『比例1位といっても自由党から当選者が出ると思ってるんですか』って。どうして、そんなに薄情なことが言えるのか。愕然とした」

小池は細川のもとを離れた時と同じように、主(あるじ)であった小沢から離反した理由を、さかんにマスコミに吹聴した。小沢の政治手法に疑問を感じたからだ、と。平野はいう。

「直前まで小沢にあれだけ迎合していたのだから、それは言い訳になっていないと思う」

小池は保守党を経由して、予定どおり自民党入りを果たす。2002年、政治家になって11年目のことだった。

「自民党を変えるには中に入って変えるのが一番だと気づいたからだ」と、彼女は語っている。

郵政選挙の刺客第1号に

永田町も一定数は女性を起用しなければ、世論の反発を招くと意識するようになっていた。女性議員であり、ある程度のキャリアを持ち、広報宣伝に長け、マスコミ受けする小池は、他党に置いておくよりも、引き入れて仲間にしたほうが得と自民党は判断したのだろう。

彼女にとって幸いしたのは、総裁が「自民党をぶっ壊す」が口癖の小泉純一郎だったことだ。翌年、小泉内閣でいきなり環境大臣に抜擢される。小泉ならではの「サプライズ人事」。当選回数や派閥でポストを割り振るそれまでの自民党内のルールを無視したやり方で、党内に総裁の力を見せつける効果があった。この時から、小泉と小池の間に「共犯関係」が生まれる。小泉政権の申し子として、小池は先回りして小泉の意を汲むようになるが、その最たる例がくだんの郵政選挙であったろう。

小泉は郵政民営化法案に反対する自民党議員の選挙区に、それぞれ「刺客」を送り込む。この時、真っ先に手をあげて自ら刺客第1号になると宣言したのが小池だった。

小池は自民党の実力者、小林興起のいる東京10区に降り立った。小林らには「抵抗勢力」というレッテルが張られ、連日、ワイドショーは小林と小池の対立構造を報道し続けた。小林が悔しさをにじませ、当時を振り返る。

「郵政民営化は、アメリカが要請したこと。心ある日本の政治家なら反対するのが当たり前です。日本の富をアメリカに叩き売るという法案なんだから。小泉さんは自分の権力を保持するために、アメリカにすり寄った。それにしても、あんなに凄まじい印象操作がされるなんて思ってもいなかった。クリーンな小泉さんに、かわいい小池さんが賛同して一緒にやっつけるっていう図にされてしまった」

総裁に楯突くのだから干されることは覚悟していた。しかし、まさか刺客を送り込まれ落選した上に、除名処分を下されるとまでは思っていなかったという。

「政治家になるために通産省に入った。通産省に入るために東大法学部に行った。そのために日比谷高校に行った。小学生の時、父が政治家という職業があることを教えてくれたんです。でも、うちには、何もないから学問をして政治家になれと。小池さんは小泉さんに気に入られて、すぐに環境大臣になった。でも、それだけでは満足しないで大臣なのに自分の選挙区をあっさり捨てて、刺客に立候補した。どうしてそこまで小泉さんにゴマをすったのか。選挙の時も『私は環境大臣で忙しくて、郵政民営化なんて勉強するヒマはなかった』と堂々と言っていた。それなら、なぜ手をあげてまで刺客になるのか。それは主義主張がないからで、ただの遊泳術だ」

キャスター時代に培った、ワンフレーズの受け答え。魅力的な表情の作り方、よどみのない話し方。政局がテレビを通じて茶の間に提供される。メディアと彼女が組んだ時、その力は絶大なものとなる。

発端は沖縄の基地問題

自民党の閣僚となった小池とメディアが組んだ結果、その後半生を大きく狂わされた人物がもうひとりいる。防衛省の大物事務次官として知られた守屋武昌だ。第1次安倍内閣で久間章生大臣が失言により更迭されると、小泉元首相の意向で後任に小池が指名される。着任時に職員が新大臣に手渡す花束に「百合の花を入れろ」というのが、小池から下された最初の注文だった。

彼女は着任するとすぐに、守屋事務次官とバトルをはじめ、その模様をマスコミは郵政選挙の時と同じように煽った。守屋は事務次官の座を追われ、同時に小池も自ら防衛大臣の座を2カ月にも満たずに降りている。一体、何があったのか。

当時、マスコミには本質が伝えられなかったが、沖縄の基地移転問題に端を発していたと、守屋武昌元事務次官は今、口にする。

「小池さんは防衛大臣になる前、小泉政権下、環境大臣と兼務で沖縄及び北方対策担当大臣をしていた。その時から、沖縄問題に大きく関与してきた。小池さんには沖縄基地問題を解決して名を挙げたい、という強烈な欲が感じられました。また、沖縄財界の一部の人たちと繋がっていて、そこで聞かされる話を鵜呑みにしていた。

小池さんは『あなたたちが主張しているV字型滑走路案はやめて、辺野古の沖合を埋め立てる案にしたほうがいい。沖縄の財界もそれを望んでいる』と言いました。環境大臣をやっていた人が海を埋め立てればいいと簡単に言うのが不思議でした。V字型滑走路案というのは米軍基地内を中心に滑走路を作るという案で、これならサンゴ礁への影響を最小限にできる。一方、沖合埋立案は、環境を破壊します。環境派を敵に回すわけにはいかない。しかし、埋立案のほうが公共事業としては、地元の業者を潤すことになるので、沖縄財界は盛んに揺さぶりをかけていたんです。こういった複雑な事情を小池さんは、十分に理解していなかった。国防に対する知識は、それまでの歴代の大臣と比べて失礼ですが低かった」

ふたりの対立は、はた目にも明らかだった。小池は露骨に守屋を遠ざけ、守屋の部下である警察庁出身の西川徹矢官房長に接近する。そんな中で突然、毎日新聞に「守屋退任へ、後任は西川」の記事が出た。守屋は何も知らされておらず、報道を見て愕然とする。なぜ、事前に伝えてくれなかったのかと小池に抗議すると、「前日の電話に出なかった、あなたが悪い」と言われ、同時にマスコミに対しては「事務次官に電話がつながらないのは、危機管理上も問題だと思う」と吹聴された。守屋は言う。

「私を外したい、ということなら、私に直接、昼間に役所で言ってくれればいい。その機会はいくらでもありました。なぜ、陰でこそこそとやるのか。こういうやり方は組織を壊します。小池さんからの電話は夜中の12時過ぎ。私の携帯電話に1回だけ、しかもワンギリです。私は就寝していて気づきませんでした。大事な電話なら、2度、3度とかけるのではないでしょうか。マスコミには事実を曲げてお話しになる。出られないようなかけ方をして、出なかった、けしからん首だ、というのは、何十年も役所に勤めあげた公務員に対してやることでしょうか。

そもそも事務次官の後任人事は、事務方にも相談し官邸を通して決めることです。小池さんは自分の決めた人事案を、親しい新聞記者に自らリークした。既成事実化し、外堀を埋めてしまえば、それが現実になるという考え方は無謀です。新聞記事が出た日の午後、小池さんはアメリカへ向かいました。『私なら基地問題をライス国務長官と女同士、英語で話せば説得できる』と単純に思っておられたようですが、まったくライスには相手にされなかった」

帰国時、事務次官人事の真相を確かめようと記者やテレビカメラが小池を取り囲んだ。小池の訪米が嫌でも注目されるように、巧みに計算されていたようにも思える。

郵政選挙の際、悪者とされた小林興起と同じ構図が守屋にも降りかかった。小林同様、恰幅がよく、太り気味の守屋は「悪人役」にはまり、クリーンな小池が果敢に戦いを挑んでいると世間には映った。

その後、守屋は商社・山田洋行からの接待疑惑が持ち上がり、特捜に収賄で逮捕起訴されることになる。「小池の嗅覚はやはりすごい」、「女のカンは鋭い」という声があがり、小池自らもそう宣伝した。一方、守屋は「特捜と小池さんとの間にパイプを感じた」と振り返る。

守屋は合計数百万円の収賄罪で起訴され、服役。約6600万円の退職金は自主返納している。

一方、小池は守屋の首を切ることに成功しつつ、「イージス艦の機密情報漏洩の責任を誰も取っていないので自分が取る」と言い、わずか55日間で防衛大臣の座を自ら降りた。イージス艦の機密漏洩問題が起こったのは、小池の着任前のことであり、辞任の説明としては説得力がなかった。官邸も騒ぎを起こした小池に怒りを滲ませており、また、ライスには歯牙にもかけられず、小池自身がひとまず降りようと思ったのだろうか。

「沖縄の基地問題の根の深さに気づき、自分の経歴が傷つかないうちに辞めたのではないか」と守屋は語る。

女性たちからの支持

その後、彼女の自己顕示欲が人事で解消されることはなかった。民主党に政権が移ると「自民党が天下を取るまで願掛けをし髪を切らない」と宣言し、自ら「臥薪嘗胆ヘア」と言い、マスコミに長髪となった理由を説明してみせた。

かつては宣伝、広報に抜群の能力を発揮し重用されたが、目立ちたいという欲が空回りし始めた印象を受ける。3年後の12年、自民党に政権が戻ると今度は「断髪式」をすると言い出した。本人は国技館を借りようと思ったらしいが、それは叶わず都内のホテルで議員を中心にした知人たちにハサミを入れさせ、やはりマスコミに取材させている。

本人は楽しんでいたのかもしれないが、少し痛々しさを感じる。こうした自己アピールも報われず、党内の「花」の役割は年若い稲田朋美や丸川珠代へと移っていった。

見栄えのする女性である、という彼女の専売特許はもはや彼女だけのものではなくなっていたのである。

だが、年齢が増していくのと引き換えに、得たものもあった。それは女性たちからの支持である。男社会の中で優遇されている女性というキャラクターから、男社会の中で孤軍奮闘してきた女性へと彼女は巧みに変貌を遂げたのだ。

男性権力者から地位を与えられないのならば、自分で掴みにいけばいい。永田町は議院内閣制であるので、トップにはなかなか立てないが首長選は直接選挙である。大衆の心を掴めば一気にトップに立てる。そうした判断から昨夏の都知事選への出馬を思い立ったのだろう。

石原慎太郎の「大年増の厚化粧」といった発言は、彼女にとって絶好の追い風となる。男性に嫉妬されいじめられながらも男性社会の不正を正そうと奮闘していると有権者の眼には映った。ミニスカートとハイヒールで選挙戦を戦った小池はパンツスーツに鉢巻という、彼女がかつて「オバサン臭くて嫌」と嫌悪した選挙スタイルに身を包み、どろ臭さを見せて、女性有権者の心を掴んだ。

この時、自民党からの除名処分を覚悟で小池の応援に駆け付けたのは若狭勝、ただひとりだった。元検事で東京地検特捜部副部長も務め、弁護士を経て14年、自民党公認で出馬し衆議院議員となった。小池とは13年の初出馬の際、選挙の応援演説をしてもらってからの縁だという。若狭は小池を擁護する。

「僕は特捜部にいて、政治家の汚職をずっと見てきた。これまでの日本の政治は『しがらみ政治』。利権構造で透明性の確保や情報公開には消極的、税金へのコスト意識も低い。この『しがらみ政治』をどうにかしなくては、政治の劣化は止まらない。小池さんは、そういったものと戦っている。自民党都連は『しがらみ政治』をしてきたから、小池さんを受け入れようとしないんです。

そもそも日本社会はあまりにも女性の視線や意見を取り入れてこなかった。多様性のない社会は弱い。国連からも女性差別の撤廃が徹底されていないと指摘されています。だから僕は、都知事は女性がいいとかねてより思っていました。その上、創造性、決断力、実行力のある小池さんなら適任です。小池さんは『しがらみ政治』と戦っているだけで、わざと敵を作って対立構造を煽っているわけではないです」

築地市場を抱える中央区の矢田美英区長は、1987年より区長に就任して現在8期目のベテランである。彼もまた小池の手腕に期待をかける。

「昨年夏、小池都知事が誕生して、いったん豊洲移転を立ち止まって考えると結論を下した。それは良かったと思います。ただ、ここまで時間がかかるとはちょっと予想外でした。遅くても今年1月には結論を出してくれるものだと思っていたんです。中央区はオリンピックの環状2号線の計画もあるので、とにかく決定を早くしてくれないと、そちらにも支障をきたしかねないから」

混乱が続く中で、小池は都議選の告示日が迫った6月20日、ようやく結論を出す。それが、「築地は守る、豊洲を活かす」という併用案だ。矢田区長はこの案を歓迎するという。

「築地を売却するのではなく活用していくという案には中央区長として賛成です。もともと私も売却せずに、ホテルやミュージアム、あるいはスポーツ施設などをつくって、活気のある街ができることを望んでいましたから。食のテーマパークというのも一案でしょう。5年後をめどに豊洲に移転した業者をもう一度築地に戻すというのは現実的には大変難しい問題も多いと思いますが、区としても築地が新たな名所となるよう都と一緒に幅広く考えていきたい」

中央区としては期待をかけているのだろう。だが、この豊洲、築地の折衷案には、「選挙対策」、「財源が定かではない」といった厳しい声も上がっている。

小池は変節したのか

都知事になってから間もなく1年が経つ。都知事就任直後は、豊洲への移転延期を表明し、オリンピック・パラリンピック会場の見直しを掲げるなど、自民党との対立姿勢を前面に打ち出していた。都知事への支持率は非常に高く、自民党都連との戦いは、連日、ワイドショーを賑わした。

その一方で、豊洲問題もオリンピック・パラリンピックの会場見直しも、何か中途半端に終わった印象が拭い切れないように思う。小池は変節したのだろうか。東京五輪組織委の副会長として交渉に立ち合った前出の遠藤は自民党議員として、この変化を好意的に受け止めていた。

「小池さんは何事も明快で、ポーンと答えを出してくる。少し早すぎるというか、周りを見ないで走っちゃうところがあるから、なかなか周りがついていけない。

けれんみのない行動力と感性。闘争心とチャレンジ精神の旺盛さは昔から。普通の人は両脇を見て走り出すけれど、小池さんは前だけ見て横を見ない。すると、あのスピードと闘争心だから、ついていける人がいないんだ。あんまり周りに人がいないのはそのせいかな。

都知事選を勝つために対立姿勢を打ち出したから、直後もそういったポーズを見せる必要があったんだと思う。だから、ちょっとギクシャクした面は確かにあった。でも、それは小池さんがよく経緯を知らなかったからで、今は状況を理解できたんじゃないのかな。森(喜朗・五輪組織委会長)さんと小池さんは仲がいい悪いじゃなくて政治手法や個性が違う。森さんは富士山に登るなら、皆に声をかけて訓練して食料を用意して、っていう人。まさにラグビーなんだ。一方、小池さんはヘリコプターに一人だけ乗って、中から皆に指示を出す。で、山頂に着いて、『早く来なさい』という感じ。まあ、勝負師なんだな。好きなのかもしれない、戦うことが」

遠藤が好意的に評価する面を、逆に危惧する人もいる。都政を長年、見つめ自らも都知事選に立候補した経験を持つ弁護士の宇都宮健児は、こう憂慮していた。

「都知事になられた直後、私は小池さんに要望書を提出しました。都の職員の方に渡して帰るつもりだったんですが、『都知事がお会いになります』と言われて部屋に通されたら、たくさんの取材陣がいて。初期の小池都政にはずいぶん私たちの意見が反映されていたと思いますが、今は小池都政に疑問も抱いています。

住民福祉は石原さんがずいぶんカットして、その分を投資や湾岸開発に回してしまった。それを小池さんはどう考えるのか。小池さんのいう都民の中に弱者が含まれているのかも疑問です。在日の方、障害者、非正規労働者、こういった人への配慮はあるのか。自民党との違いが不鮮明になってきているように感じます」

自民党との繋がりが小池都政の命取りになると危惧する声は、小沢一郎自由党代表からも聞かれた。

「都議選は勝つでしょう。彼女がくまなく回って応援演説すれば。では、勝ってどうするのか。そこで何をするのか。そこからはじめて彼女に、本当の評価が都民から下されることになる。だから、これからが大変なんです。

今、子どもの火遊びみたいなことを官邸がやっている。権力の適切な使い方を安倍さんは知らない。彼女がその二の舞をするとは思わないけれど、気を付けなきゃいけない。

人間はそれなりのポジションに就くと、どうしても保身の欲が出てきます。それが心の中で勝ってしまうと、もうダメだ。自分を捨てないと政(まつりごと)はうまくいかない。安倍政治に対する不満が、小池さんへの期待につながっている部分がある。でも、それが自民党にすり寄っているとなったら、都民は引いていくでしょう。ちょうど、民主党が自民党にすり寄ってダメになったように。

ようやく離党届を出したようだけれど、どこまで反自民を打ち出していけるか。途中ですり寄ったらダメだ。ただ知事になっていたいと思ったら、自民でも安倍さんでもすり寄ればいいけれど。でも、何を考えているのか、もうひとつわからないところがある。理念的なものを持っているのか。自民党とそんなに大きく考え方が違わないようにも見えます」

築地移転の方針を示した3日後の23日、公示日を迎え都議選が本格的にスタートした。選挙を仕切るのは小池百合子の「腹心」「参謀」と言われる、元都議の野田数である。都議時代には尖閣諸島購入計画を熱烈に支持し、大日本帝国憲法の復活請願を都議会に出したことでも知られる。小池とこの野田によって「都民ファーストの会」の候補者は選定された。候補者たちは小池をひたすら仰ぎ見て、その考えに追従すると表明している。

政治家というよりも「女優」

彼女を語る声と、彼女自身による「語り」との間にある隔たり。それを知った時、私の中で彼女は、政治家というよりも「女優」の印象が強くなった。

彼女は与えられた役を演じているだけ。あるいは、「女性の政治家」という役割を、求めに応じて演じているだけなのではないだろうか。だからこそ、そこには彼女の深い意思を見出すことはできない。私のなかにあった彼女に対する「戸惑い」は、彼女を女優だと捉えることで消えていった。自分のイメージを守るために「語り」続ける。事実の上書きをする。主張にずれが生じることも女優であれば、役が変わるのだから当然だろう。

スポットライトを浴びたいという欲求。どこに行けば自分が注目されるのか、どうすれば世間からヒロインとして扱われるのかを常に考える。こうした「女優」気質に彼女自身も振り回され続けているのではないだろうかと思う。

彼女は生まれたときから頬に大きなアザがあったという。「百合ちゃんは美人じゃないから、ひとりで生きていけるようにならなくてはダメよ」と幼い頃から母に言われ続けた。このアザこそが自分の生きる原動力になったと、議員になりたての頃、雑誌のインタビューで語っている。

彼女の人生は、この頬のアザを化粧で隠すことから大きく変わっていった。魅力的な容姿は天から与えられたものではなく、彼女の努力によって後天的に得られたものであり、だからこそ彼女は、それを最大限に活用して、自分ひとりで生きる道を模索し続けた。「語り」という化粧とともに。

事業に失敗した父親は日本からカイロに渡ると、アラブの実力者との会合に着物を着させて娘・百合子を同伴した。男性の実力者への身の処し方は、その頃から身に着けたものなのだろう。そんな両親を小池は、最後まで経済的に支えた。「強い人が好き」と理想の男性像を聞かれて答えているが、権力者を好むと同時に、権力者になりたいと願ったのは、落魄(らくはく)し娘を何かと頼ろうとする父親を見てきたことと無関係ではないだろう。

常に自分が生き延びることを優先し、彼女は情を切り捨ててきた。そんなものに気を捉われていたら、自分も足をすくわれて、深い淵に沈んでしまうといった強迫観念のようなものがあったのだろうか。上へ上へと浮かび上がろうとし、状況も人も利用してきた。では、すべてを手にしたとき、彼女はスポットライトを浴びるということの他に一体、何をやりたいのだろう。

選挙カーという舞台の上で黄緑色の衣装を身につけ、「女性初の都知事」という役を演じ続けている。熱狂なき観客を前に、候補者という脇役を横に。それでも彼女の表情は恍惚と、輝いているように見えた。

「メガ大家」の知られざる苦悩

不動産投資に興味のある人や既に始めている人なら「メガ大家」という言葉をよく耳にするだろう。世間では所有物件の総額が10億円を超えるような大家のことをいつのまにか「メガ大家」と呼ぶようになっている。そしてこのメガ大家たちの中には苦悩ばかりであまり儲かっていない人がいると言われ始めている。

■メガ大家達が増えた背景

今メガ大家と呼ばれている不動産投資家のほとんどは、2009年から2013年の間に始めた人が多いと言われている。このころから低金利政策と東京五輪開催決定の影響で一般の人が気付かないうちに不動産投資ブームが始まりつつあったのである。

不動産投資家としての手法が素晴らしいメガ大家も実に多い。しかし一方でこの良きタイミングに乗れたことでメガ大家が増えたという見方も否定できない。銀行の融資も受けやすい属性の多いサラリーマンやコツコツと小さい物件から始めていた主婦などの投資家が一気にメガ大家への階段を上がれる環境が整っていた時期なのである。

融資を活用して資産を増やしているので10億という資産は「純資産」ではない。融資を受けながら節税に効果のある買い増しを続けて増やした10億の資産には、70%から80%に達する借入のあるメガ大家がほとんどだと言われている。

■資産10億での実際のキャッシュフロー

かなりざっくりとしたシミュレーションだが資産10億レベルの人で家賃収入を年8000万円としてキャッシュフローを計算してみよう。

物件によって様々ではあるだろうが総資産の80%前後について20~25年くらいの融資期間で3%前後の借入をしているとする。表面利回り8%台を維持していても融資返済額を差し引くと残るのは大体年額で4000万円前後だと推測できる。

「サラリーマンが不動産投資で年収4000万!」といったタイトルで紹介されているメガ大家たちの収支内訳の大体がこのような成り立ちをしているだろう。これは年収なのでそこからさらに税金を差し引き、修繕積立費などの予備費を考慮すると手元に残せるのは年額で2000万円前後にしかならないという計算になる。

年間5000万円近い返済を続けながら満室を維持するための労力は決して半端ではない。本業を持ちながらそれらの賃貸事業を行っているのであるから彼らはある意味やはり「メガ大家」なのかもしれない。

■短期間での資産増加は見込めなくなる時代

前述のように短期間で不動産を買い足すことができた環境で多くのメガ大家が誕生したことは否定できないだろう。融資をフル活用して一棟マンションを買い、常に満室経営しながら数億もの借入の返済を続けている。融資環境が活発で不動産の価格も上昇に向かっている市場下では買い替え、買い増しを駆使するメガ大家たちの手腕がセミナーなどでも話題になっていた。

しかし決して誰にでもできるほど楽な運営ではなく苦悩のほうが多いということはこのように収支をシミュレーションすれば分かる。買い足しを行うのは購入初年度の経費計上でキャッシュフローのバランスが取れるからだ。市況が穏やかになりすぎて買い足しを続けられなくなると、返済に充てるはずの収入に税金がのしかかる。これを「デッドクロス」といい、キャッシュアウトの状況に陥ってしまう可能性が一気に高まるのだ。一部のメガ大家が破綻寸前になっているとささやかれるのはこれらが主な要因であろう。

メガ大家の全てが不動産投資を楽しみながら儲けを維持しているわけではない。上り始めた階段を引き戻せなくなっているメガ大家もいるというのが現状だろう。彼らの投資手法には多くの人が憧れ、これから自分でもその場所を目指して奮闘をしている人も多いはずだ。

しかし今後の不動産投資手法は変えざるを得ない時期に差し掛かっているのかもしれない。売り買いを繰り返す短期的な増資ではなく堅実なキャピタルゲインを生み出しながら着実に実績を積む。その賃貸事業の信頼性に対して融資をする金融機関がメインになるだろう。ミドルリスクミドルリターンが特徴である本来の不動産投資のスタイルを振り返る時期だろう。(片岡美穂、行政書士、元土地家屋調査士)

アパート融資で顧客をカモる悪徳銀行

日本経済新聞(4月23日付)に気になる記事が出ていた。 古賀茂明

「アパート融資で利益相反か 建築業者から顧客紹介料」「一部の大手地銀 金融庁が是正へ」という見出しだ。「利益相反」というのだから、大手地銀が何か悪いことをしていたんだろうということは想像できる。しかし、「是正へ」という程度だから、犯罪ではないし、それほどの大きな話ではないなという印象を抱いてしまう。

しかし、ことの詳細を知れば、おそらく多くの人は、こんな見出しじゃ済まないと感じるだろう。実態をより的確に表す見出しにすれば、「顧客を食い物にする大手地銀! 業者と結託してアパート融資詐欺」「金融庁が是正指導へ」というところだろう。

では、何がそんなに酷いのか。わかりやすく解説してみよう。

上記日経記事によれば、拡大している賃貸アパート向けの融資で、一部の大手地銀が顧客を建築業者に紹介する見返りに手数料を受け取っていることが金融庁の調べでわかったということだ。

手数料はアパート建築請負金額の0.5~3%だというから、請負額が5000万円の場合、顧客を紹介しただけで150万円も銀行が請負業者から手数料をもらうことがあることになる。

ここで、実際に顧客と銀行の間で、どういうやり取りが行われているか想像しよう。

銀行員:「お客様がお持ちの土地を有効活用してみませんか。今アパート経営に関心をお持ちのお客様が急激に増えているんですよ」

顧客:「土地はあるけど現金はないしね。借金までしてやるのはねえ。本当に儲かるんですかね」

銀行員:「もちろん、当行から資金はお貸しできます。しかも、その金利は、マイナス金利時代ですので、今は最高の借り時です。アパートを建てれば、相続税対策にもなりますし、とても有利なお取引になります」

顧客:「アパート経営はやったことないし、リスクがあるんじゃないの?」

銀行員:「最近は安かろう悪かろうの業者も増えていますが、当行が取引している業者で、信頼できるところを紹介させていただきます。建設からその後のアパートの管理運営まで全てやってくれますし、賃料保証契約もできますので、お客様には大きなお手間を取らせずにアパート経営が可能です」

顧客:「そんなうまい話があるのかなあ」

銀行員:「もしよろしければ、ご紹介させていただきます。業者の方から連絡させますので、話だけでも聞いてみたらいかがでしょうか。もちろん、ご納得がいかなければ、お断りいただいて全くかまいませんので」

顧客:「じゃあ、話だけでも聞いてみるかな。土地を遊ばせておくのももったいないし、相続税も上がったっていうからね」

こんなやり取りで業者につなげば、そのうちの何割かが契約に至り、アパート融資の実績もできる上に、業者からの手数料も入る。こんなに楽で儲かる商売は今時珍しい。

紹介を受けた顧客は、銀行が推薦する業者だからと安心して、請負金額が少し高いなと感じても、安心料だと思って契約してしまう。しかし、実際には、銀行への手数料分だけ、建築コストとは別に建築費に上乗せされているわけだ。

「利益相反」だと金融庁が問題にしたのは、銀行が、表向きは「顧客のため」と称してアパート経営を勧め、業者を紹介するのに、実際は、建築費が高くなればなるほど自分が儲かり、顧客が損をする仕組みになっているからだ。

顧客は銀行のカモにされているということになる。

セールストークの「信頼できる業者」も、「顧客にとって信頼できる」業者ではなく、紹介した対価として確実に手数料を払ってくれるという「銀行にとって信頼できる」業者なのである。ひどい話ではないか。

地銀にとっての「神風」となった相続税の増税

アパート融資の問題は、手数料だけにとどまらない。

そもそも、人口減少社会で、アパート経営を「これからの儲かる商売」だとして推奨し、そのために借金をさせるという行為自体が詐欺的商法ではないのかという疑いがあるからだ。

アパート経営が流行っている背景には、マイナス金利政策と相続税制の変更という二つの要因がある。

マイナス金利政策で、これまで余剰資金を国債に振り向けていた銀行は、その道も塞がれ、ますます資金を持て余すようになる。何とか融資を増やしたいが、景気は今一つだし、優良な融資先を見いだす目利き能力もない地銀などは、どうしても従来型の不動産担保融資に頼らざるを得ない。そこで、「マイナス金利時代に入りました。今が借り時です」というセールストークでアパート融資に顧客を誘導するわけだ。

顧客の側は、どうせ家を建てるなら金利が安い今が有利だと考えて、その誘いに乗るパターンが生じる。

もう一つのパターンが相続税対策だ。2015年から、相続税の基礎控除が下がり、これまでほとんど相続税のことを心配しなくてよかった人も相続税を払わなければならなくなった。元々相続税を払う人でも、その額は大きく増える。そこで、相続税の節税対策のニーズが高まった。これが、融資先探しに悩んでいる地銀にとっては、神風になったのだ。土地を持っている顧客に、「アパート経営をすれば、相続税が減りますよ」と言えば、多くの顧客が関心を示すという。

ご存知の方も多いと思うが、通常のケースでは、財産を現金で持つよりも不動産にした方が相続税の評価額が安くなる。その分相続税は減る。また、銀行からの融資は債務となるため財産額を圧縮できる。さらに、土地の上に賃貸物件があると、それだけで、普通の土地よりもさらに評価額が下がる。したがって、普通の持ち家よりもアパート経営をすると相続税が大きく減る可能性が高いのだ。

ここまで聞いて、「なるほど、アパート経営は得するんだな」と思った人は、銀行の紹介する建築業者の話を聞くことになる。そこでは、顧客の持っている土地に合わせた、アパート建築プランを含めた詳細な将来の収支計画が示される。相続税の軽減額なども具体的な金額で教えてもらえる。

「アパート経営を始めるなら、今しかありません。いつ金利が上がるかわかりませんから」などとせかされて、「これはいいことばかりだから、乗った方がいいな」と思って、銀行から借金をして、アパート経営に乗り出した膨大な数の人が日本中にいるのだ。こういう顧客はまさに銀行にとっての「最優良顧客」である。

●アパート経営にはこれから逆風の時代

しかし、この話には大きな落とし穴がある。それは、提示されたシミュレーションが、現在の貸家の賃料相場が今後長期間にわたって継続することを前提としていることだ。もちろん、これには、市場の需要要因、供給要因双方から見て無理がある。

日本は、ご存じのとおり、長期的な人口減少時代に入っている。それでも、単身世帯の増加などで、世帯数は全国で見れば今年も増え続けている。それは、住宅需要も減少はしていないということを意味する。

しかし、この傾向は、2019年ごろから逆転する見通しだ。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、世帯総数は2010年の5184万世帯から2019年の5307万世帯まで増加するが、それをピークに減少に転じ、2035年には4956万世帯まで減る。地域別にみると、2015年にはすでに15県で減少に転じているが、20年までには34道県、25年までに42道府県で、25年以降は沖縄以外はすべて減少に転じるという予想だ。

今後は必要な住宅の数が減り続けることになるわけで、これは、アパート経営にとっては、完全な逆風の時代の到来ということを意味する。

すでに大きな話題になっているとおり、日本中に空き家が増えていて、2013年には、空き家率が13.5%と過去最高を記録。山梨県の17.2%が最も高く,次いで四国4県がいずれも16%台後半となっている。この数字はどんどん増えることが確実だ。ここまでは住宅の需要側から見たリスクだ。

一方、供給側から見ても大変なリスクがある。最近、全国の貸家の建設は異常な増加を続けている。

国土交通省統計では、2016年の新設住宅着工戸数は前年比6.4%増で96万7000戸を超え、2年連続増加となったが、持ち家の3.1%増加に対して、貸家は10.5%増とはるかに伸びが大きい。08年(46万4851戸)以来8年ぶりの高水準だという。異常とも言えるアパートブームである。

もちろん、その裏にはアパート融資がある。日銀によると2016年12月末のアパート融資残高は前年同月比4.9%増の22兆1668億円。09年の統計開始以来、過去最高を更新した。

●顧客の錯覚を悪用する銀行と業者は詐欺商法の共同正犯?

こうした需給両面での異常な状況を反映して、一部の地域では、すでに家賃が下がり始めている。アパート建設から間もないのに契約した家賃収入が入らず、業者との間でトラブルになっているケースがどんどん増えているという。

個人の視点、短期の視点で見れば極めて合理的な選択でも、集団で同じ行動をとる前提で中長期的視点から見ると全く違った絵が見えることに、実は、銀行も建築業者も気づいているはずだ。

しかし、顧客は、巧みなセールストークに乗せられて、「錯覚」に陥っている。それを知っていながら、むしろ助長しているのだから、銀行と建築業者は詐欺的アパート経営勧誘の共同正犯と言っても良いだろう。

実は、アパート融資で大きな役割を果たしているのは銀行だけではない。ノンバンクによるさらに悪質なアパート経営勧誘が猛烈な勢いで展開されている。

業者によっては、「ゼロ円の資金であなたもアパート経営者」などというキャッチフレーズで、ほとんど詐欺のような商売を展開しているものもある。頭金ゼロで始めると、返済負担が大きいため、少しでも賃料収入の見込みが崩れると、すぐに返済が滞りやすく、さらに、地価が少し下がっただけで、担保を換金しても借金が返済できない事態に陥ることになる。

アパート融資は、早晩、大きな社会問題になるであろう。

●アリバイ作りに動く日銀は「銀行本位」

事態がどんどん深刻化する中、4月24日に新しいニュースが流された。

日銀が、地銀の不動産業者向け融資が過剰になっているという内容の報告書をまとめたという内容だ(NHK)。不動産業者向けという言い方だが、その増加分の大半はアパート融資である。同報告書では、空室が目立つ地域もあるなどとして、市場動向を十分に把握して融資の審査を行うべきだと警鐘を鳴らした。

しかし、日銀の考え方は、一般市民のため、あるいは「顧客本位」という視点に立ったものではない。無理なアパート融資を行うと、それが焦げ付いたときに銀行の損失になる。その規模が大きくなると銀行経営に大きな影響が出て、金融システムを不安定化させる恐れがあるという「銀行本位」の視点でしかものを見ていないようなのだ。

例えば、黒田東彦総裁は2月21日の段階でも、国会答弁で、「郊外物件など一部に空室率の上昇などみられるが、マクロ的な貸家の需給バランスや金融機関のリスク管理に大きな問題が生じているとはみていない」と語っている(日経新聞)。これは、銀行が損をすると困るが、そうでなければどうでもよいという姿勢だ。顧客が大きな損をしても知ったことではないということなのだろう。

上述した日銀の報告書は、社会問題化すれば、日銀も批判される恐れがあるので、日銀も警告しましたよというアリバイ作りをしただけの可能性が高い。

銀行に評判の悪いマイナス金利政策もこの問題の原因の一つになっているので、あまり、銀行に厳しく当たるのはためらわれるという事情もあるのだろう。これでは、日銀は共犯者という見方も出てきそうである。

これに対して、金融庁は、顧客本位の原則に沿って是正を促す方針だという。これは、日銀よりもはるかにまともな対応だ。昨年末から、アパート融資が「顧客本位」の取引になっているのかどうかという視点で検査を行い、建築業者からの紹介手数料の問題をやり玉に挙げたのは正しい。世論に訴えることで、銀行をけん制しようという意図も読み取れる。

しかし、このままでは、悪徳商法はなくならないだろう。紹介手数料を禁止するか、少なくともその手数料率を顧客に事前に示すことを義務付けることが必要だ。

また、将来の収支シミュレーションを示す場合には、賃料が10%下落、20%下落、30%下落、空室率10%、20%、30%のケースなどを基本シミュレーションと同じ程度にしっかりと説明させることも義務付けるべきだ。もちろん、金融庁だけでなく、不動産業や建設業を所管する国土交通省とも連携する必要がある。

単に、指導というようなあいまいなアリバイ作りで済ませることなく、制度的対応を早急に取るべきである。

レオパレス21を訴えた賃貸オーナー

管理戸数約57万戸、賃貸オーナー数約2万7000人を誇る、賃貸不動産大手のレオパレス21。2008年のリーマンショックで一時は経営難に陥ったが、その後は業績も回復し、再び存在感を強めている。そんな同社に怒りの声を上げるオーナーらが二つの裁判を起こした。いったい何が起こっているのか。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 大根田康介)

 3月14日、名古屋地方裁判所で行われたある裁判には30人近い傍聴人が列席し、法廷は緊張感に包まれていた。その裁判とは、昨年11月25日付で提起された、賃貸不動産大手のレオパレス21が展開する「家具・家電総合メンテナンスサービス」にまつわる集団訴訟だ。

原告は物件のオーナー129人。中心となるのは、代表の前田和彦氏が愛知県名古屋市で2014年1月に設立した「LPオーナー会」。元はレオパレスの信奉者だったという前田氏は、「同社は契約を軽視している。家具・家電メンテナンスが適正ではなく、やらずぼったくりだ」と憤りを隠さない。

なぜ、ここまで両者の関係がこじれたのか。経緯を説明しよう。

同社のメーン事業はワンルームアパートの賃貸管理だ。富裕層や高齢者がオーナーとなり、相続税対策で建てるケースが多い。同社が建物を30年一括借り上げするサブリース契約を結ぶことで、オーナーは空室でも一定の家賃収入を保証される仕組みである。

そんな同社の売りの一つが、ベッド、机などの家具や、テレビなどの家電が初めから備え付けられていることだ。テレビCMなどでも、学生や単身赴任者などの入居に便利だと盛んに訴求している。

実はこの家具や家電は、図のように、原契約ではオーナーが所有し、レオパレスが修繕などの「保守業務」を行う。そして新築から7年経過後は所有権がオーナーからレオパレスに移り、「レンタル業務」として引き続きメンテナンスを行うというものだ。

これが「家具・家電総合メンテナンスサービス」と呼ばれるもので、オーナーはレンタル業務に対し、1戸当たり月2000円、仮に30戸なら年間72万円のサービス料を同社に支払っている。

ところがだ。前田氏は、半年に1回手元に届くメンテナンス報告書を見て、7年たっても新品に交換されていない家具・家電の存在に気が付いた。

新品の家具や家電の方が入居者への訴求力が高いことは、言うまでもない。ましてや、新品に交換されていないにもかかわらず、サービス料はしっかりと家賃から天引きされているというのだ。

これでは、オーナー側が怒るのも無理はない。そこで、14年8月から15年4月にかけて家具・家電の入れ替えを何度か掛け合ったが、折り合いがつかず、家賃から天引きされたサービス料を未払い賃料として約4億8684万円の返還を請求するという裁判を「やむなく起こすに至った」という。

対するレオパレスの宮尾文也取締役執行役員は、「原契約が実態に合わなくなった。特に家具は造り付けのパターンが増え、7年たっても入居者がいると入れ替えできなかった」と説明する。

そのため同社は、15年10月8日付でサービス内容を変更し、変更合意書を作った。だが、これがさらなる波紋を呼ぶ。

家賃減額分の支払いを求める裁判も起こされる

変更合意書によれば、当初ひとくくりだった家具・家電を、家具と家電で業務を分け、家具は保守業務に統一し一括借り上げ契約期間中はオーナー所有として扱う。

宮尾氏は「どちらでもオーナーの負担費用は変わらない。戸別訪問し、9割以上の方に了承していただいた」と言う。一方の前田氏は、「この変更はわれわれとの話し合いが解決していない中でなされて不自然。中身を理解しないまま合意書に押印した人もいるはず。またオーナーに所有権があると、減価償却処理で除却処理ができず税務上支障を来す」と訴える。

両者の主張が平行線をたどる中、今年2月22日に愛知県の男性が、同社を相手取り裁判を起こした。

この男性は20戸のアパートを建て、05年1月に同社とサブリース契約を結んだ。契約書には「家賃は当初10年間は不変」との記載があったにもかかわらず、08年のリーマンショックで同社の経営が悪化した際に、10年未満で家賃減額を求められたという。

そこでLPオーナー会が特別部会を立ち上げ、簡易裁判所の調停で解決を目指したが、折り合いがつかず、同部会代表者が訴訟に踏み切った。今回の請求金額は約81万円だが、同じ境遇のオーナーが他に100人以上おり、こちらも集団訴訟になりそうだ。

この件について前田氏は、「同社から倒産するかもしれないと言われて、情けで合意したオーナーも多い。業績が回復したのに家賃が回復しないのは解せない」と話す。一方の宮尾氏は、「家賃相場が回復していない地域もある。外部から入手した客観的データも使い、適正な家賃交渉をしている」と正当性を主張する。

この二つの裁判を同社はどう乗り切るのか。賃貸不動産業界に及ぼす影響も含めて注目される。

金融庁・日銀 アパートローンの監視強化

[東京 12日 ロイター] – 金融機関による個人の貸し家業向け貸出(アパートローン)の急増に対し、金融庁・日銀が監視を強めている。複数の関係筋が明らかにした。相続税対策や超低金利を背景に富裕層などによる貸家の建設・取得需要が増大。一方で人口・世帯数の減少が確実視され、空室率の上昇など供給過剰感が出始めたためだ。

担保や保証に依存した安易な貸し出しも増え、金融庁・日銀は適切なリスク管理を促し、金融機関の対応に目を光らせている。

<過去最高続くアパートローン、当局は実態把握に乗り出す>

地域金融機関を中心としたアパートローンの急拡大を受け、金融庁と日銀は実態把握に乗り出した。

増加の背景には、2015年の相続税増税に伴う富裕層や土地所有者の節税需要がある。加えて金融機関間の貸出競争も激化し、「債務者に富裕層が多く、担保と保証さえあれば、賃料という物件の収益性を度外視して、融資を行っているケースが少なくない」(金融筋)とされる。

同ローンを増加させている金融機関に対する金融庁検査や日銀考査では、融資の審査や実行後の管理が適正に行われているかが、チェック項目に挙がっている。

関東地区の複数の地域金融機関は、先行きの金利や空室率の動向について、強いストレスをかけてシミュレーションする必要があると指摘された。人口減少が明確な基調になっており、空室率の上昇がローンの不良債権化をもたらすとの強い危機感が当局にあるとみられる。

別の地域金融機関は、貸し出し増を図るためにアパートローンを含めた不動産融資への傾斜が問題視され、需要がピークアウトした場合の経営陣の認識も問われた、という。

ある金融庁幹部は、11月中旬に開かれた地銀トップとの会合でアパートローンについて「貸出案件の掘り起こしは、不動産業者による持ち込みが多いとの話を聞く。地域銀行自身が顧客ニーズ、貸出実行後の事業動向を十分に把握できていない状況もあり得る」と言及。顧客本位の融資判断の重要性も指摘した。

日銀によると、国内銀行によるアパートローンの2016年9月末残高は前年比4.5%増の22兆0224億円。貸し出し全体の増加率が同2%台で推移する中、ほぼ2倍の伸び。2015年1月の相続税増税以降は、7四半期連続で過去最高を更新し続けている。

新規貸出も今年度上期で1兆8915億円に達し、年度ベースで過去最高だった15年度の3兆2709億円を上回るペースだ。

<金融システムへの影響には距離、不良債権予備軍の指摘も>

現段階では都市部を中心に貸家への一定の入居需要があることから、金融庁、日銀ともにアパートローンの増加が、直ちに金融機関経営に重大な問題を生じさせるとはみていない。

だが、都市部でも人口・世帯数が減少に転じるリスクがあり、いったん需給バランスが崩れれば、返済原資となる賃料も下落する可能性が大きい。「中長期的視点に立ったリスク管理が重要」(日銀幹部)となっている。

実際に15年以降のハイペースの貸家の増加は、需給関係を悪化させている。

不動産調査会社のタス(東京都・中央区)によると、首都圏のアパート(木造・軽量鉄骨)の空室率は、2015年春ごろまで30%前後で安定的に推移してきた。しかし、その後に急上昇し、今年9月に神奈川県で36.87%、東京23区で34.74%など2004年に調査を開始して以降、最高の空室率となっている。

同社の藤井和之主任研究員は、背後に相続税対策に伴う貸家建設の急増があると指摘。「需要と供給のバランスが崩れ始めている。長い目で見れば、経営が厳しくなるアパートがそれなりに出てくるだろう」と分析する。

アパートローンは金融機関にとって、住宅ローンに比べて貸出金利が高く「設備投資ニーズがない中で、何億円という単位でロットが大きく、貸出残高を伸ばせる」(関東地区の地銀幹部)との狙いがある。

しかし、他県の金融機関も参戦した低金利競争によって貸出金利回りも低下を続けており、先の地銀幹部は「不良債権の予備軍のような案件に積極的に貸しているところもあるようだ」と警戒感を示している。

<金融庁、経済・市場変化の影響を警戒>

金融庁が今年10月に公表した「金融行政方針」の中では「長短金利の低下が継続する中で、金融機関には海外向け貸出や外貨建て資産運用、長期債への投資、不動産向け与信(アパートローンを含む)を増加させる等の動きが見られる。こうした動きが、経済・市場環境が変化した際に、金融機関の健全性に悪影響を及ぼさないか検証する」との記述が盛り込まれた。

また、全国地方銀行協会の中西勝則会長(静岡銀行頭取)は、11月の定例会見でアパートローンを含めた不動産融資について「あまりに集中すればリスクがあるし、それによって不動産の価格が上がりすぎれば、リスクがあると思う」と述べた。

金融庁・日銀、アパートローンの監視強化 過剰供給リスクで© REUTERS 金融庁・日銀、アパートローンの監視強化 過剰供給リスクで

同時に「そういう兆候までいっていないという数字が出ているので、注意しながらやらないといけないが、危険水域には入っていないという見方をしている」と語った。

アパートローンの増加について、金融庁の広報担当者は「当庁が行う検査・監督については、金融行政方針に従って対応している。ただ、個別案件については答えられない」としている。

日銀・金融機構局は「金融機関の信用リスク面の課題の一つと考えており、日銀として考査・モニタリングにおいてリスク管理を点検し、その充実を促している」とコメントした。

銀行の不動産向け融資が上期で過去最高

[東京 16日 ロイター] – 日銀が16日公表した貸出先別貸出金・統計によると、ことし4月から9月の国内金融機関による不動産業向け新規融資は5兆8943億円と前年比16%増加した。年度の上期としては、バブル期の1989年度上期(5兆円強)を超え、過去最高の水準となった。

銀行の不動産向け融資が上期で過去最高、バブル期越える=日銀© REUTERS 銀行の不動産向け融資が上期で過去最高、バブル期越える=日銀 新規融資の総額は前年比16%増の23兆9413円だった。ことし2月のマイナス金利導入など日銀による大規模緩和を背景とした低金利環境で、アパート向け融資や不動産投資信託(REIT)向けなど不動産業向けが伸び、金融機関の貸出を押し上げている。

不動産向け融資について日銀は「過熱方向と、供給過剰による調整方向と両方の動きがある」(幹部)として注視している。10月に公表した金融システムリポートでも、大都市圏の一部で「投資利回りが低水準となる高値取引がみられる」、「REIT(不動産投資信託)等の物件取得が地方圏に広がる動きがみられている」と指摘している。