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津田大介「コスパ抜群、ネットによる印象操作」

フェイクニュースがなぜつくられ、世の中で流通するのかつぶさに調べた衝撃のリポートが6月13日に発表された。

発表したのは、セキュリティー企業のトレンドマイクロ。リポートでは、フェイクニュースを政治プロパガンダ目的で利用する場合に必要なコストが、様々なデータとともに示されている。

実は、フェイクニュースを使った政治プロパガンダは簡単に行える。そういう工作を請け負う専門業者が世界中にたくさん存在するからだ。例えば、中国のコンテンツマーケティング企業「ジージバング(Xiezuobang)」に800語のでっちあげニュースを書かせたければ、わずか30ドル(約3300円)でOK。

ロシアにあるソーシャルメディア最適化企業「SMOサービス」に依頼すれば、621ドル(約6万9千円)でユーチューブのメインページに2分間の映像を登録できる。投稿した映像に「サクラ」によるコメントを100個つけるのは、2.6ドル(約290円)というから驚きだ。

発信する情報に注目を集めることもお安い御用。英語を主言語とするフォロワー販売企業「クイック・フォロー・ナウ」に依頼すればいい。2500人のツイッター・フォロワーに特定のリンクをリツイートさせるのは、わずか25ドル(約2780円)で可能だ。

こうした外部業者を組み合わせて利用すれば、特定の人物の評判をフェイクニュースで落とすことも簡単にできる。例えば、4週間にわたって否定的な記事をツイッターのフィードに流し続け、その記事一つひとつをそれぞれ5万回リツイート。その後毒のある中傷合戦やその記者に対する否定的なコメントをしかければいい。この場合の総費用は5万5千ドル(約612万円)。ライバルを蹴落としたい政治家にとっては決して高い金額ではないだろう。

大規模な選挙キャンペーンの場合、まずフェイクニュースを生成し、人気サイトと相互リンクさせる。その後ソーシャルメディアのフォロワーを動かし、何百万もの「いいね!」を有料で購入する。これを繰り返して話題を集め、フェイクニュースを実際のマスメディアが取り上げればしめたもの。あとは広まるに任せればいい。これを実施するには12カ月で40万ドル(約4450万円)ほどの予算が必要だ。

米連邦選挙委員会に提出された選挙資金収支報告書によれば、昨年の大統領選挙でトランプ大統領がテレビ広告に支出した額は2億3900万ドル(約266億円)。

そう、ネット工作の専門業者を使ってキャンペーンを行うのは、テレビで広告を打つよりも大幅にコストパフォーマンスが良いのである。

日本でも同様のビジネスを行っている業者は無数にある。ネットで目にする「市井の人々の意見」がはたして本当に「世論」なのか、それとも業者によるものなのか。受け手が慎重に判断しなければならない時代に突入しているのだ。

※週刊朝日 2017年7月7日号

「メガ大家」の知られざる苦悩

不動産投資に興味のある人や既に始めている人なら「メガ大家」という言葉をよく耳にするだろう。世間では所有物件の総額が10億円を超えるような大家のことをいつのまにか「メガ大家」と呼ぶようになっている。そしてこのメガ大家たちの中には苦悩ばかりであまり儲かっていない人がいると言われ始めている。

■メガ大家達が増えた背景

今メガ大家と呼ばれている不動産投資家のほとんどは、2009年から2013年の間に始めた人が多いと言われている。このころから低金利政策と東京五輪開催決定の影響で一般の人が気付かないうちに不動産投資ブームが始まりつつあったのである。

不動産投資家としての手法が素晴らしいメガ大家も実に多い。しかし一方でこの良きタイミングに乗れたことでメガ大家が増えたという見方も否定できない。銀行の融資も受けやすい属性の多いサラリーマンやコツコツと小さい物件から始めていた主婦などの投資家が一気にメガ大家への階段を上がれる環境が整っていた時期なのである。

融資を活用して資産を増やしているので10億という資産は「純資産」ではない。融資を受けながら節税に効果のある買い増しを続けて増やした10億の資産には、70%から80%に達する借入のあるメガ大家がほとんどだと言われている。

■資産10億での実際のキャッシュフロー

かなりざっくりとしたシミュレーションだが資産10億レベルの人で家賃収入を年8000万円としてキャッシュフローを計算してみよう。

物件によって様々ではあるだろうが総資産の80%前後について20~25年くらいの融資期間で3%前後の借入をしているとする。表面利回り8%台を維持していても融資返済額を差し引くと残るのは大体年額で4000万円前後だと推測できる。

「サラリーマンが不動産投資で年収4000万!」といったタイトルで紹介されているメガ大家たちの収支内訳の大体がこのような成り立ちをしているだろう。これは年収なのでそこからさらに税金を差し引き、修繕積立費などの予備費を考慮すると手元に残せるのは年額で2000万円前後にしかならないという計算になる。

年間5000万円近い返済を続けながら満室を維持するための労力は決して半端ではない。本業を持ちながらそれらの賃貸事業を行っているのであるから彼らはある意味やはり「メガ大家」なのかもしれない。

■短期間での資産増加は見込めなくなる時代

前述のように短期間で不動産を買い足すことができた環境で多くのメガ大家が誕生したことは否定できないだろう。融資をフル活用して一棟マンションを買い、常に満室経営しながら数億もの借入の返済を続けている。融資環境が活発で不動産の価格も上昇に向かっている市場下では買い替え、買い増しを駆使するメガ大家たちの手腕がセミナーなどでも話題になっていた。

しかし決して誰にでもできるほど楽な運営ではなく苦悩のほうが多いということはこのように収支をシミュレーションすれば分かる。買い足しを行うのは購入初年度の経費計上でキャッシュフローのバランスが取れるからだ。市況が穏やかになりすぎて買い足しを続けられなくなると、返済に充てるはずの収入に税金がのしかかる。これを「デッドクロス」といい、キャッシュアウトの状況に陥ってしまう可能性が一気に高まるのだ。一部のメガ大家が破綻寸前になっているとささやかれるのはこれらが主な要因であろう。

メガ大家の全てが不動産投資を楽しみながら儲けを維持しているわけではない。上り始めた階段を引き戻せなくなっているメガ大家もいるというのが現状だろう。彼らの投資手法には多くの人が憧れ、これから自分でもその場所を目指して奮闘をしている人も多いはずだ。

しかし今後の不動産投資手法は変えざるを得ない時期に差し掛かっているのかもしれない。売り買いを繰り返す短期的な増資ではなく堅実なキャピタルゲインを生み出しながら着実に実績を積む。その賃貸事業の信頼性に対して融資をする金融機関がメインになるだろう。ミドルリスクミドルリターンが特徴である本来の不動産投資のスタイルを振り返る時期だろう。(片岡美穂、行政書士、元土地家屋調査士)

前川次官の乱は「平成の忠臣蔵」

古賀茂明「前川・前文科事務次官の乱は“平成の忠臣蔵” 大石内蔵助の登場は?」

先週、加計学園問題が急展開した。ことの経緯は報道でご存知の方が多いだろうから割愛するが、「官邸の最高レベル」や「総理のご意向」という文言が含まれた文書が現れ、あたかも総理や官邸の意向に従って、総理の「腹心の友」である加計孝太郎氏の加計学園による学部新設が認められたのではないかという疑惑が問題の焦点となっている。

政府側はその文書の存在を否定しているが、前川喜平・前文部科学事務次官が、その資料は、「確実に存在した」「あったものをなかったことにはできない」などと証言したことで、「怪文書」の一言で片づけることはできない状況に政府が追い込まれたというのが、客観的な情勢である。

野党やリベラル勢力は、「潮目が変わった」と勢いづいているが果たしてそうなのか。加計学園問題が本当に政権を揺さぶる事態になるのかどうか。

私は、その行方を占うカギは、文科省の現職官僚の中から「四十七士」が登場するかどうかにあると見ている。

●「総理のご意向」は規制緩和ドリルはまやかし

前川証言が出てから、官邸周辺の御用コメンテーターたちがしきりに安倍政権を擁護する言い訳を発信し始めた。

その中で、一番まともに聞こえるのは、獣医師の業界団体である日本獣医師会の利権を守るために長年獣医師の数を増やさないようにしていた文科省が戦いに敗れて逆恨みしているだけだという解説だ。

この説では、「守旧派」である文科省に内閣府が安倍総理の方針である「規制緩和」を進めるために「総理のご意向」だぞと言ったことのどこが悪いということになる。

普通は「規制緩和」で既得権と戦うと言えば、正義の戦いだということになる。だから、担当省庁や業界、族議員の抵抗が強くても、世論に訴えれば優位な状況を作ることができる。私も規制緩和を担当しているときにそういう手法を多用したものだ。

しかし、今回、内閣府はそうした動きを全く見せていない。それは、世論に訴えると、まずい事情があったからだ。

実は、加計学園以外にも京都産業大学という実績のある大学が候補として存在し、「岩盤規制」にドリルで穴をあけると世論に訴えた場合、京都産業大と加計学園の両方の申請を広く世論の監視の中で審査するということになる。しかし、加計学園の申請は十分な根拠に乏しいという事情があった。

そこで二つの仕掛けで加計学園だけに絞ろうとした。

一つ目は、認める学校数を一つにしたことだ。競争を促進したいなら、最初から一つだけと決める必要はないはずなのだが。

これについては、二つもいっぺんに認めると獣医師会と族議員の反発が大きくて実現が危うくなるから仕方なかったというのが、御用コメンテーターたちの言い訳だが、これも全くいい加減な話だ。

仮に一つだけにするにしても、まず、両校に申請を出させて、正々堂々と国民の前で審査すればよかった。しかし、それだと、おそらく京都産業大に軍配が上がるのでまずいから、二つ目の仕掛けとして、応募要件に「広域的に」獣医師系養成大学が存在しない地域に「限り」認めるとして、大阪に獣医師養成コースがあるから京都産業大は資格がなくなるという要件設定がなされたのである。

つまり、「規制緩和」という錦の御旗は単なる見せかけで、実態は、加計学園への利益誘導の手段として使われたに過ぎないということだ。

●天下り問題への前川前次官や文科官僚たちの思いを想像する

ここから先は、官僚経験者としての推理になるが、おそらく前川氏は、こう考えたのではないだろうか。

まず、天下り問題で、官邸のパフォーマンスに利用されたという思いがある。

霞が関の常識では、文科省の天下りなど「かわいい」ものだ。大学の事務局長くらいになっても、年収は現職時代とそれほど変わらない。2000万円にもならないケースも多い。それに比べて、財務省、経済産業省などの幹部は、一流大企業などに天下りして年収5000万円というケースも珍しくない。本来は、そうした天下りにメスを入れるべきなのに、安倍政権は、大手省庁と戦うと政権が危ないからと弱小官庁の文科省をやり玉に挙げて、いかにも安倍政権が天下りに厳しいという宣伝に使った。

しかも、前川前次官は悪の権化のように扱われ、自主退職を強要されたわけだ。

実は、この程度のことで懲戒免職なんてことは絶対にないのが霞が関。自主退職させるとしても通常の人事異動の時期まで待つのが普通だ。

さらに、安倍政権の厳しい対応には、加計学園問題で官邸の意向に逆らった文科省への見せしめ懲罰という側面があったことも確実だ。少なくとも、やられた文科省、特に前川氏は、その意図を明確に感じ取ったはずだ。

文科省は、正論を貫こうとしたら、力ずくで抑え込まれたという被害者意識を持っている。前川氏が、行政が歪められたという趣旨の発言をしたのはその証左だ。文科省側に、強烈な反感が芽生えたとしてもおかしくない。

●前川氏の乱は「平成の忠臣蔵」になるのか

今回の前川氏の行動は、完全な個人の単独行動なのだろうか。

前川氏には省内に多くのシンパがいると言われる。当然退職後も部下たちから、官邸に対する恨み節を聞いていたはずだ。

文科省という役所の行政が官邸の横やりで歪められ、強大な官庁と違い、ひとり天下りで悪者扱いされた。このままでは、文科官僚の誇りも自信もズタズタにされたままだ。

現職の後輩たちには難しい課題を突き付けることになるが、誰か立ち上がってくれる者がいるはずだ。そんな思いで今回の証言に及んだのではないだろうか。あるいは、すでに、後に続いて立ち上がろうと準備している後輩がいるのかもしれない。前川氏が、後輩官僚に対して気の毒だと言ったり、現職時代に自分ができなかったことを後輩に対して要求するのは申し訳ないというような発言をしているのは、そうした状況を反映してのものだと見ることもできる。

たとえて言えば、今、吉良上野介(安倍官邸ないし内閣府官僚)に斬りつけた浅野内匠頭(前川氏)が、おそらくこれから官邸の人格攻撃などで、社会的に葬り去られる瀬戸際にある。仮にそうなったとしても、後輩の中から、大石内蔵助をはじめ赤穂の四十七士(後輩の心ある文科官僚)のような義士が現れて、仇を討ってくれるはずだ。

そんな思いで前川氏は立ち上がったのではないだろうか。

●吉良上野介は官邸の誰か?

忠臣蔵の話を出したので、それになぞらえてみれば、浅野内匠頭(前川氏)を切腹させようとしているのは、菅義偉官房長官と安倍総理ということだろう。時の将軍徳川綱吉というところだが、それ以前に文科省をいびり倒した吉良上野介に当たるのは経産官僚という見方もできる。

私の古巣なので、今回登場している内閣府の藤原豊審議官(経産省から出向中)もよく知った仲だ。普段は、元気の良い人で、新しいことへのチャレンジ精神にあふれているという印象がある。

官邸の意向と言えば、藤原氏が直接総理や官房長官から指示を受けていたとは考えにくい。おそらく今井尚哉総理秘書官(経産官僚)の意向を受けて、本意ではなかったかもしれないが、動いていたのであろう。

経産官僚の中には、文科省を見下す雰囲気がある。彼らの持つイメージでは、文科省は、時代の流れに取り残されて、規制に頼って生きている古い役所だ。自分たちの方が一段優れているというあまり根拠のない意識も持っている。

麻生太郎財務相など、獣医師会と癒着した族議員のことを恐れて、また、自分たちもその利権のおこぼれにあずかろうとしている文科省なんかの言うことは聞く必要がないと考えていたのかもしれない。

こうした経産省全体に蔓延する日ごろの傲慢な意識に加え、官邸を支える最有力官庁になったという自負もあり、文科省が官邸の意向に逆らっていることに対して、見下すような強い調子で「総理のご意向」を葵の御紋のように振りかざしたとしても、まったく驚くことではない。

こうした行為に対して、文科省は、教育の門外漢から許し難い侮辱を受けたと感じたであろう。こう考えると吉良上野介は経産省という見立てもできる。しかし、文科省が経産省に復讐するのは制度的には難しい。

結局、かたき討ちをしようと思えば、安倍政権と戦うしかない。忠臣蔵で言えば、四十七士が幕府に戦いを挑むようなものである。

そう考えると、前川氏が期待する四十七士が出てくるのかどうか。

非常に厳しい状況だが、もし出てくれば、市民は熱狂的に支持し、「平成の忠臣蔵」となる。

そうなれば、本当に政治の潮目が変わるかもしれないのだが……。

アパート融資で顧客をカモる悪徳銀行

日本経済新聞(4月23日付)に気になる記事が出ていた。 古賀茂明

「アパート融資で利益相反か 建築業者から顧客紹介料」「一部の大手地銀 金融庁が是正へ」という見出しだ。「利益相反」というのだから、大手地銀が何か悪いことをしていたんだろうということは想像できる。しかし、「是正へ」という程度だから、犯罪ではないし、それほどの大きな話ではないなという印象を抱いてしまう。

しかし、ことの詳細を知れば、おそらく多くの人は、こんな見出しじゃ済まないと感じるだろう。実態をより的確に表す見出しにすれば、「顧客を食い物にする大手地銀! 業者と結託してアパート融資詐欺」「金融庁が是正指導へ」というところだろう。

では、何がそんなに酷いのか。わかりやすく解説してみよう。

上記日経記事によれば、拡大している賃貸アパート向けの融資で、一部の大手地銀が顧客を建築業者に紹介する見返りに手数料を受け取っていることが金融庁の調べでわかったということだ。

手数料はアパート建築請負金額の0.5~3%だというから、請負額が5000万円の場合、顧客を紹介しただけで150万円も銀行が請負業者から手数料をもらうことがあることになる。

ここで、実際に顧客と銀行の間で、どういうやり取りが行われているか想像しよう。

銀行員:「お客様がお持ちの土地を有効活用してみませんか。今アパート経営に関心をお持ちのお客様が急激に増えているんですよ」

顧客:「土地はあるけど現金はないしね。借金までしてやるのはねえ。本当に儲かるんですかね」

銀行員:「もちろん、当行から資金はお貸しできます。しかも、その金利は、マイナス金利時代ですので、今は最高の借り時です。アパートを建てれば、相続税対策にもなりますし、とても有利なお取引になります」

顧客:「アパート経営はやったことないし、リスクがあるんじゃないの?」

銀行員:「最近は安かろう悪かろうの業者も増えていますが、当行が取引している業者で、信頼できるところを紹介させていただきます。建設からその後のアパートの管理運営まで全てやってくれますし、賃料保証契約もできますので、お客様には大きなお手間を取らせずにアパート経営が可能です」

顧客:「そんなうまい話があるのかなあ」

銀行員:「もしよろしければ、ご紹介させていただきます。業者の方から連絡させますので、話だけでも聞いてみたらいかがでしょうか。もちろん、ご納得がいかなければ、お断りいただいて全くかまいませんので」

顧客:「じゃあ、話だけでも聞いてみるかな。土地を遊ばせておくのももったいないし、相続税も上がったっていうからね」

こんなやり取りで業者につなげば、そのうちの何割かが契約に至り、アパート融資の実績もできる上に、業者からの手数料も入る。こんなに楽で儲かる商売は今時珍しい。

紹介を受けた顧客は、銀行が推薦する業者だからと安心して、請負金額が少し高いなと感じても、安心料だと思って契約してしまう。しかし、実際には、銀行への手数料分だけ、建築コストとは別に建築費に上乗せされているわけだ。

「利益相反」だと金融庁が問題にしたのは、銀行が、表向きは「顧客のため」と称してアパート経営を勧め、業者を紹介するのに、実際は、建築費が高くなればなるほど自分が儲かり、顧客が損をする仕組みになっているからだ。

顧客は銀行のカモにされているということになる。

セールストークの「信頼できる業者」も、「顧客にとって信頼できる」業者ではなく、紹介した対価として確実に手数料を払ってくれるという「銀行にとって信頼できる」業者なのである。ひどい話ではないか。

地銀にとっての「神風」となった相続税の増税

アパート融資の問題は、手数料だけにとどまらない。

そもそも、人口減少社会で、アパート経営を「これからの儲かる商売」だとして推奨し、そのために借金をさせるという行為自体が詐欺的商法ではないのかという疑いがあるからだ。

アパート経営が流行っている背景には、マイナス金利政策と相続税制の変更という二つの要因がある。

マイナス金利政策で、これまで余剰資金を国債に振り向けていた銀行は、その道も塞がれ、ますます資金を持て余すようになる。何とか融資を増やしたいが、景気は今一つだし、優良な融資先を見いだす目利き能力もない地銀などは、どうしても従来型の不動産担保融資に頼らざるを得ない。そこで、「マイナス金利時代に入りました。今が借り時です」というセールストークでアパート融資に顧客を誘導するわけだ。

顧客の側は、どうせ家を建てるなら金利が安い今が有利だと考えて、その誘いに乗るパターンが生じる。

もう一つのパターンが相続税対策だ。2015年から、相続税の基礎控除が下がり、これまでほとんど相続税のことを心配しなくてよかった人も相続税を払わなければならなくなった。元々相続税を払う人でも、その額は大きく増える。そこで、相続税の節税対策のニーズが高まった。これが、融資先探しに悩んでいる地銀にとっては、神風になったのだ。土地を持っている顧客に、「アパート経営をすれば、相続税が減りますよ」と言えば、多くの顧客が関心を示すという。

ご存知の方も多いと思うが、通常のケースでは、財産を現金で持つよりも不動産にした方が相続税の評価額が安くなる。その分相続税は減る。また、銀行からの融資は債務となるため財産額を圧縮できる。さらに、土地の上に賃貸物件があると、それだけで、普通の土地よりもさらに評価額が下がる。したがって、普通の持ち家よりもアパート経営をすると相続税が大きく減る可能性が高いのだ。

ここまで聞いて、「なるほど、アパート経営は得するんだな」と思った人は、銀行の紹介する建築業者の話を聞くことになる。そこでは、顧客の持っている土地に合わせた、アパート建築プランを含めた詳細な将来の収支計画が示される。相続税の軽減額なども具体的な金額で教えてもらえる。

「アパート経営を始めるなら、今しかありません。いつ金利が上がるかわかりませんから」などとせかされて、「これはいいことばかりだから、乗った方がいいな」と思って、銀行から借金をして、アパート経営に乗り出した膨大な数の人が日本中にいるのだ。こういう顧客はまさに銀行にとっての「最優良顧客」である。

●アパート経営にはこれから逆風の時代

しかし、この話には大きな落とし穴がある。それは、提示されたシミュレーションが、現在の貸家の賃料相場が今後長期間にわたって継続することを前提としていることだ。もちろん、これには、市場の需要要因、供給要因双方から見て無理がある。

日本は、ご存じのとおり、長期的な人口減少時代に入っている。それでも、単身世帯の増加などで、世帯数は全国で見れば今年も増え続けている。それは、住宅需要も減少はしていないということを意味する。

しかし、この傾向は、2019年ごろから逆転する見通しだ。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、世帯総数は2010年の5184万世帯から2019年の5307万世帯まで増加するが、それをピークに減少に転じ、2035年には4956万世帯まで減る。地域別にみると、2015年にはすでに15県で減少に転じているが、20年までには34道県、25年までに42道府県で、25年以降は沖縄以外はすべて減少に転じるという予想だ。

今後は必要な住宅の数が減り続けることになるわけで、これは、アパート経営にとっては、完全な逆風の時代の到来ということを意味する。

すでに大きな話題になっているとおり、日本中に空き家が増えていて、2013年には、空き家率が13.5%と過去最高を記録。山梨県の17.2%が最も高く,次いで四国4県がいずれも16%台後半となっている。この数字はどんどん増えることが確実だ。ここまでは住宅の需要側から見たリスクだ。

一方、供給側から見ても大変なリスクがある。最近、全国の貸家の建設は異常な増加を続けている。

国土交通省統計では、2016年の新設住宅着工戸数は前年比6.4%増で96万7000戸を超え、2年連続増加となったが、持ち家の3.1%増加に対して、貸家は10.5%増とはるかに伸びが大きい。08年(46万4851戸)以来8年ぶりの高水準だという。異常とも言えるアパートブームである。

もちろん、その裏にはアパート融資がある。日銀によると2016年12月末のアパート融資残高は前年同月比4.9%増の22兆1668億円。09年の統計開始以来、過去最高を更新した。

●顧客の錯覚を悪用する銀行と業者は詐欺商法の共同正犯?

こうした需給両面での異常な状況を反映して、一部の地域では、すでに家賃が下がり始めている。アパート建設から間もないのに契約した家賃収入が入らず、業者との間でトラブルになっているケースがどんどん増えているという。

個人の視点、短期の視点で見れば極めて合理的な選択でも、集団で同じ行動をとる前提で中長期的視点から見ると全く違った絵が見えることに、実は、銀行も建築業者も気づいているはずだ。

しかし、顧客は、巧みなセールストークに乗せられて、「錯覚」に陥っている。それを知っていながら、むしろ助長しているのだから、銀行と建築業者は詐欺的アパート経営勧誘の共同正犯と言っても良いだろう。

実は、アパート融資で大きな役割を果たしているのは銀行だけではない。ノンバンクによるさらに悪質なアパート経営勧誘が猛烈な勢いで展開されている。

業者によっては、「ゼロ円の資金であなたもアパート経営者」などというキャッチフレーズで、ほとんど詐欺のような商売を展開しているものもある。頭金ゼロで始めると、返済負担が大きいため、少しでも賃料収入の見込みが崩れると、すぐに返済が滞りやすく、さらに、地価が少し下がっただけで、担保を換金しても借金が返済できない事態に陥ることになる。

アパート融資は、早晩、大きな社会問題になるであろう。

●アリバイ作りに動く日銀は「銀行本位」

事態がどんどん深刻化する中、4月24日に新しいニュースが流された。

日銀が、地銀の不動産業者向け融資が過剰になっているという内容の報告書をまとめたという内容だ(NHK)。不動産業者向けという言い方だが、その増加分の大半はアパート融資である。同報告書では、空室が目立つ地域もあるなどとして、市場動向を十分に把握して融資の審査を行うべきだと警鐘を鳴らした。

しかし、日銀の考え方は、一般市民のため、あるいは「顧客本位」という視点に立ったものではない。無理なアパート融資を行うと、それが焦げ付いたときに銀行の損失になる。その規模が大きくなると銀行経営に大きな影響が出て、金融システムを不安定化させる恐れがあるという「銀行本位」の視点でしかものを見ていないようなのだ。

例えば、黒田東彦総裁は2月21日の段階でも、国会答弁で、「郊外物件など一部に空室率の上昇などみられるが、マクロ的な貸家の需給バランスや金融機関のリスク管理に大きな問題が生じているとはみていない」と語っている(日経新聞)。これは、銀行が損をすると困るが、そうでなければどうでもよいという姿勢だ。顧客が大きな損をしても知ったことではないということなのだろう。

上述した日銀の報告書は、社会問題化すれば、日銀も批判される恐れがあるので、日銀も警告しましたよというアリバイ作りをしただけの可能性が高い。

銀行に評判の悪いマイナス金利政策もこの問題の原因の一つになっているので、あまり、銀行に厳しく当たるのはためらわれるという事情もあるのだろう。これでは、日銀は共犯者という見方も出てきそうである。

これに対して、金融庁は、顧客本位の原則に沿って是正を促す方針だという。これは、日銀よりもはるかにまともな対応だ。昨年末から、アパート融資が「顧客本位」の取引になっているのかどうかという視点で検査を行い、建築業者からの紹介手数料の問題をやり玉に挙げたのは正しい。世論に訴えることで、銀行をけん制しようという意図も読み取れる。

しかし、このままでは、悪徳商法はなくならないだろう。紹介手数料を禁止するか、少なくともその手数料率を顧客に事前に示すことを義務付けることが必要だ。

また、将来の収支シミュレーションを示す場合には、賃料が10%下落、20%下落、30%下落、空室率10%、20%、30%のケースなどを基本シミュレーションと同じ程度にしっかりと説明させることも義務付けるべきだ。もちろん、金融庁だけでなく、不動産業や建設業を所管する国土交通省とも連携する必要がある。

単に、指導というようなあいまいなアリバイ作りで済ませることなく、制度的対応を早急に取るべきである。

レオパレス21を訴えた賃貸オーナー

管理戸数約57万戸、賃貸オーナー数約2万7000人を誇る、賃貸不動産大手のレオパレス21。2008年のリーマンショックで一時は経営難に陥ったが、その後は業績も回復し、再び存在感を強めている。そんな同社に怒りの声を上げるオーナーらが二つの裁判を起こした。いったい何が起こっているのか。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 大根田康介)

 3月14日、名古屋地方裁判所で行われたある裁判には30人近い傍聴人が列席し、法廷は緊張感に包まれていた。その裁判とは、昨年11月25日付で提起された、賃貸不動産大手のレオパレス21が展開する「家具・家電総合メンテナンスサービス」にまつわる集団訴訟だ。

原告は物件のオーナー129人。中心となるのは、代表の前田和彦氏が愛知県名古屋市で2014年1月に設立した「LPオーナー会」。元はレオパレスの信奉者だったという前田氏は、「同社は契約を軽視している。家具・家電メンテナンスが適正ではなく、やらずぼったくりだ」と憤りを隠さない。

なぜ、ここまで両者の関係がこじれたのか。経緯を説明しよう。

同社のメーン事業はワンルームアパートの賃貸管理だ。富裕層や高齢者がオーナーとなり、相続税対策で建てるケースが多い。同社が建物を30年一括借り上げするサブリース契約を結ぶことで、オーナーは空室でも一定の家賃収入を保証される仕組みである。

そんな同社の売りの一つが、ベッド、机などの家具や、テレビなどの家電が初めから備え付けられていることだ。テレビCMなどでも、学生や単身赴任者などの入居に便利だと盛んに訴求している。

実はこの家具や家電は、図のように、原契約ではオーナーが所有し、レオパレスが修繕などの「保守業務」を行う。そして新築から7年経過後は所有権がオーナーからレオパレスに移り、「レンタル業務」として引き続きメンテナンスを行うというものだ。

これが「家具・家電総合メンテナンスサービス」と呼ばれるもので、オーナーはレンタル業務に対し、1戸当たり月2000円、仮に30戸なら年間72万円のサービス料を同社に支払っている。

ところがだ。前田氏は、半年に1回手元に届くメンテナンス報告書を見て、7年たっても新品に交換されていない家具・家電の存在に気が付いた。

新品の家具や家電の方が入居者への訴求力が高いことは、言うまでもない。ましてや、新品に交換されていないにもかかわらず、サービス料はしっかりと家賃から天引きされているというのだ。

これでは、オーナー側が怒るのも無理はない。そこで、14年8月から15年4月にかけて家具・家電の入れ替えを何度か掛け合ったが、折り合いがつかず、家賃から天引きされたサービス料を未払い賃料として約4億8684万円の返還を請求するという裁判を「やむなく起こすに至った」という。

対するレオパレスの宮尾文也取締役執行役員は、「原契約が実態に合わなくなった。特に家具は造り付けのパターンが増え、7年たっても入居者がいると入れ替えできなかった」と説明する。

そのため同社は、15年10月8日付でサービス内容を変更し、変更合意書を作った。だが、これがさらなる波紋を呼ぶ。

家賃減額分の支払いを求める裁判も起こされる

変更合意書によれば、当初ひとくくりだった家具・家電を、家具と家電で業務を分け、家具は保守業務に統一し一括借り上げ契約期間中はオーナー所有として扱う。

宮尾氏は「どちらでもオーナーの負担費用は変わらない。戸別訪問し、9割以上の方に了承していただいた」と言う。一方の前田氏は、「この変更はわれわれとの話し合いが解決していない中でなされて不自然。中身を理解しないまま合意書に押印した人もいるはず。またオーナーに所有権があると、減価償却処理で除却処理ができず税務上支障を来す」と訴える。

両者の主張が平行線をたどる中、今年2月22日に愛知県の男性が、同社を相手取り裁判を起こした。

この男性は20戸のアパートを建て、05年1月に同社とサブリース契約を結んだ。契約書には「家賃は当初10年間は不変」との記載があったにもかかわらず、08年のリーマンショックで同社の経営が悪化した際に、10年未満で家賃減額を求められたという。

そこでLPオーナー会が特別部会を立ち上げ、簡易裁判所の調停で解決を目指したが、折り合いがつかず、同部会代表者が訴訟に踏み切った。今回の請求金額は約81万円だが、同じ境遇のオーナーが他に100人以上おり、こちらも集団訴訟になりそうだ。

この件について前田氏は、「同社から倒産するかもしれないと言われて、情けで合意したオーナーも多い。業績が回復したのに家賃が回復しないのは解せない」と話す。一方の宮尾氏は、「家賃相場が回復していない地域もある。外部から入手した客観的データも使い、適正な家賃交渉をしている」と正当性を主張する。

この二つの裁判を同社はどう乗り切るのか。賃貸不動産業界に及ぼす影響も含めて注目される。

金融庁・日銀 アパートローンの監視強化

[東京 12日 ロイター] – 金融機関による個人の貸し家業向け貸出(アパートローン)の急増に対し、金融庁・日銀が監視を強めている。複数の関係筋が明らかにした。相続税対策や超低金利を背景に富裕層などによる貸家の建設・取得需要が増大。一方で人口・世帯数の減少が確実視され、空室率の上昇など供給過剰感が出始めたためだ。

担保や保証に依存した安易な貸し出しも増え、金融庁・日銀は適切なリスク管理を促し、金融機関の対応に目を光らせている。

<過去最高続くアパートローン、当局は実態把握に乗り出す>

地域金融機関を中心としたアパートローンの急拡大を受け、金融庁と日銀は実態把握に乗り出した。

増加の背景には、2015年の相続税増税に伴う富裕層や土地所有者の節税需要がある。加えて金融機関間の貸出競争も激化し、「債務者に富裕層が多く、担保と保証さえあれば、賃料という物件の収益性を度外視して、融資を行っているケースが少なくない」(金融筋)とされる。

同ローンを増加させている金融機関に対する金融庁検査や日銀考査では、融資の審査や実行後の管理が適正に行われているかが、チェック項目に挙がっている。

関東地区の複数の地域金融機関は、先行きの金利や空室率の動向について、強いストレスをかけてシミュレーションする必要があると指摘された。人口減少が明確な基調になっており、空室率の上昇がローンの不良債権化をもたらすとの強い危機感が当局にあるとみられる。

別の地域金融機関は、貸し出し増を図るためにアパートローンを含めた不動産融資への傾斜が問題視され、需要がピークアウトした場合の経営陣の認識も問われた、という。

ある金融庁幹部は、11月中旬に開かれた地銀トップとの会合でアパートローンについて「貸出案件の掘り起こしは、不動産業者による持ち込みが多いとの話を聞く。地域銀行自身が顧客ニーズ、貸出実行後の事業動向を十分に把握できていない状況もあり得る」と言及。顧客本位の融資判断の重要性も指摘した。

日銀によると、国内銀行によるアパートローンの2016年9月末残高は前年比4.5%増の22兆0224億円。貸し出し全体の増加率が同2%台で推移する中、ほぼ2倍の伸び。2015年1月の相続税増税以降は、7四半期連続で過去最高を更新し続けている。

新規貸出も今年度上期で1兆8915億円に達し、年度ベースで過去最高だった15年度の3兆2709億円を上回るペースだ。

<金融システムへの影響には距離、不良債権予備軍の指摘も>

現段階では都市部を中心に貸家への一定の入居需要があることから、金融庁、日銀ともにアパートローンの増加が、直ちに金融機関経営に重大な問題を生じさせるとはみていない。

だが、都市部でも人口・世帯数が減少に転じるリスクがあり、いったん需給バランスが崩れれば、返済原資となる賃料も下落する可能性が大きい。「中長期的視点に立ったリスク管理が重要」(日銀幹部)となっている。

実際に15年以降のハイペースの貸家の増加は、需給関係を悪化させている。

不動産調査会社のタス(東京都・中央区)によると、首都圏のアパート(木造・軽量鉄骨)の空室率は、2015年春ごろまで30%前後で安定的に推移してきた。しかし、その後に急上昇し、今年9月に神奈川県で36.87%、東京23区で34.74%など2004年に調査を開始して以降、最高の空室率となっている。

同社の藤井和之主任研究員は、背後に相続税対策に伴う貸家建設の急増があると指摘。「需要と供給のバランスが崩れ始めている。長い目で見れば、経営が厳しくなるアパートがそれなりに出てくるだろう」と分析する。

アパートローンは金融機関にとって、住宅ローンに比べて貸出金利が高く「設備投資ニーズがない中で、何億円という単位でロットが大きく、貸出残高を伸ばせる」(関東地区の地銀幹部)との狙いがある。

しかし、他県の金融機関も参戦した低金利競争によって貸出金利回りも低下を続けており、先の地銀幹部は「不良債権の予備軍のような案件に積極的に貸しているところもあるようだ」と警戒感を示している。

<金融庁、経済・市場変化の影響を警戒>

金融庁が今年10月に公表した「金融行政方針」の中では「長短金利の低下が継続する中で、金融機関には海外向け貸出や外貨建て資産運用、長期債への投資、不動産向け与信(アパートローンを含む)を増加させる等の動きが見られる。こうした動きが、経済・市場環境が変化した際に、金融機関の健全性に悪影響を及ぼさないか検証する」との記述が盛り込まれた。

また、全国地方銀行協会の中西勝則会長(静岡銀行頭取)は、11月の定例会見でアパートローンを含めた不動産融資について「あまりに集中すればリスクがあるし、それによって不動産の価格が上がりすぎれば、リスクがあると思う」と述べた。

金融庁・日銀、アパートローンの監視強化 過剰供給リスクで© REUTERS 金融庁・日銀、アパートローンの監視強化 過剰供給リスクで

同時に「そういう兆候までいっていないという数字が出ているので、注意しながらやらないといけないが、危険水域には入っていないという見方をしている」と語った。

アパートローンの増加について、金融庁の広報担当者は「当庁が行う検査・監督については、金融行政方針に従って対応している。ただ、個別案件については答えられない」としている。

日銀・金融機構局は「金融機関の信用リスク面の課題の一つと考えており、日銀として考査・モニタリングにおいてリスク管理を点検し、その充実を促している」とコメントした。

空腹

病気で早死する若者増で「親が子の葬式」多発…空腹のなさ&食の西洋化で短寿命化

去る10月3日に、ノーベル生理学・医学賞に輝いた東京工業大学栄誉教授の大隈良典博士の受賞理由は、「栄養を失って飢餓状態に陥った細胞が、生き延びるために自らを食べる作用=autophagy(オートファジー)」の解明だ。

「オートファジー」の具体的な機能は次の通り。

1.細胞内の栄養の「再利用」
2.細胞内の不要物質を分解して掃除する「浄化」作用
3.細胞内に入り込んだウイルスなどの病原体や有害物質を分解して細胞を守る「防御」作用

一方、ヒトや動物が飢餓(極度の空腹)にさらされたときに、正常細胞が過剰な糖分、脂肪、タンパク質や病的細胞などを食べて栄養にして生き延びようとする現象が以前から知られていた。これを「autolysis」(オートリシス:自己融解)という。

また、がん細胞が宿っている人体や動物が、飢餓や高熱にさらされると、がん細胞は自殺する。これを「Apotosis」(アポトーシス)という。

つまり、動物や人体内では、飢餓のときに、病気を癒したり、健康を増進したりする力(治癒力、免疫力)が旺盛になることがわかる。

●空腹の歴史

人類300万年の歴史は、ある面「空腹の歴史」だったといっても過言ではない。地震、洪水、山火事、干ばつなどの天変地異により、食料の捕獲がままならず、常に空腹を強いられてきた。よって体内には、空腹のときに生き延びる機能がたくさん備わっているのである。

お腹が空いて血糖が下がりフラフラしているときに血糖を上昇させるホルモンは、アドレナリン、ノルアドレナリン、グルカゴン、サイロキシンなど、10以上も存在する。しかし食べ過ぎて血糖が上昇したとき、それを下げるホルモンはインスリンひとつしか存在しない。

我々現代人は、これまで経験したことのない飽食の時代を生きている。だからこそ、過食の栄養素の処理の仕方がわからず高血糖(糖尿病)、高脂血症、脂肪肝、高尿酸血症(痛風)などの明らかな「食べ過ぎ病」のほか、がんや肺炎、アレルギー、自己免疫疾患など、ありとあらゆる病気を患い、もがき苦しんでいる。

なぜなら、免疫力の主役である白血球の働きも満腹のとき低下し、空腹のとき増強するからだ。

●空腹の効能

日本には100歳以上の長寿者(百寿者)が約6万5000人いらっしゃる半面、20~40代の若者ががんや心臓病などで、どんどん亡くなっている。「親が子供の葬式をする」という「逆さ化現象」があちこちで起こっているのである。

百寿者たちは病院や健康診断、人間ドックなどほとんどない環境で、毎日家事労働を強いられ、よく歩き、粗食と空腹のなかで生きてきた人たちである。

百寿者たちと早死にする55歳以下の“若者”たちの寿命の長短を決めている要因は、肉・卵・牛乳・バター・マヨネーズに代表される高脂肪食の摂取の多寡、筋肉労働や運動の量の差などであろうが、ひとつにしぼれといわれると、私は日常的に「空腹」を経験したことがあるかどうかという点を指摘したい。

空腹の効能については、空腹のときに「オートファジー」「オートリシス」「アポトーシス」などの現象が発現するほかに、細胞の中の「sirtuin(サーチュイン:長寿)遺伝子」が活性化することを、2000年に米国マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授が証明している。

最低でも1日1回、空腹の時間を設けること、そしてお腹が空いてから食事をする(空いていないなら食べない)ことなどを心がけることによって、健康・長寿を心がけたいものである。
(文=石原結實/イシハラクリニック院長、医学博士)

銀行の不動産向け融資が上期で過去最高

[東京 16日 ロイター] – 日銀が16日公表した貸出先別貸出金・統計によると、ことし4月から9月の国内金融機関による不動産業向け新規融資は5兆8943億円と前年比16%増加した。年度の上期としては、バブル期の1989年度上期(5兆円強)を超え、過去最高の水準となった。

銀行の不動産向け融資が上期で過去最高、バブル期越える=日銀© REUTERS 銀行の不動産向け融資が上期で過去最高、バブル期越える=日銀 新規融資の総額は前年比16%増の23兆9413円だった。ことし2月のマイナス金利導入など日銀による大規模緩和を背景とした低金利環境で、アパート向け融資や不動産投資信託(REIT)向けなど不動産業向けが伸び、金融機関の貸出を押し上げている。

不動産向け融資について日銀は「過熱方向と、供給過剰による調整方向と両方の動きがある」(幹部)として注視している。10月に公表した金融システムリポートでも、大都市圏の一部で「投資利回りが低水準となる高値取引がみられる」、「REIT(不動産投資信託)等の物件取得が地方圏に広がる動きがみられている」と指摘している。